網川君の彼女は、お値段の張る“ユーリョーブッケン”。
階段を一気に駆けのぼった名残が残っている。
3階って不便だなぁ。
「今のは見なかったことにしたほうが・・・良いですか?」
「っ・・・全然時間に間に合ってるんでっ、見たことにしてもらって・・・大丈夫ですっ!」
「えー先生、あれ間に合ってんのー?」
・・・誰だ。
私を遅刻にしようとしている人間は。
声のしたほうを振り向くと・・・あ、学級委員。
手を上げていたのは、ザ・やる気のない学級委員、炉端 晄。
いっつもだるそうに学級委員の集まりに行っている、クラスのムードメーカー男子だ。
「・・・微妙ですね」
悩んでいる先生に、蘭ちゃんがさらに一言。
「入学したときには、“1時限目のチャイムまでに着席”って言われたんですけど」
よく憶えてるね。
「・・・どういう判断をすれば良いのでしょうか・・・」
大分悩んでいる数学の先生。
――そのとき、廊下で足音が近づいてきた。
・・・ああ、私が勢いよくあけ放ったドア、開きっぱなしだった。