約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

「な、何をする、気ですか？」

「うーん、鬼退治ってところかな」

　サラリーマン風の男性へ喧嘩をふっかけるつもりなのか。カフスボタンを優雅に外す四鬼さんからは不穏な空気が発せられた。

「鬼退治って？　ふざけている場合じゃないですよ！」

「ふざけてなんかない。見てみなよ？」

　顎で視線を誘導され、男性が四つん這いになり唸るのを目撃する。文字通り、地を這う低い声があの日の記憶を呼び起こし、真っ赤に染まった目で凄まれて悲鳴を飲み込む。
　この不快感ーー強盗未遂の時と似ている。

　男性がわたし目掛けて襲いかかってくると四鬼さんも飛び付く。一瞬で男性を道路へ押し倒し馬乗りになった。

「っががが、あがが！」

　見た目は人なのに男性が発するのは言葉でなく音。壊れた楽器で怒りの譜面を弾くみたい。

「一定期間、血を飲まないでいるとこうなる。理性が破綻して飢えたモンスターとなってしまう。君の血の香りを辿ってここに来たんだな」

「わたしの血？」

「あぁ、君の血は特別だ」

　スーツを気にせず暴れる男性。足をバタつかせつつ爪を立て四鬼さんを狙うも、空を鋭く切る。
　四鬼さんは男性のみぞおち辺りに体重をかけ、動きを封じた。その際、上着から何かが出てきた。