約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「お母さんに何かしたんですか?」

「異性の気を引くのは鬼の能力のひとつ。桜子ちゃんの身内から活力を奪うなんてしないから安心して。学校へは車で? それとも徒歩?」

「一緒に行くのは決定事項なんですね」

「桜子ちゃんと登下校出来たら嬉しいな」

 わたしには屈託のない笑顔を見せる。

「目立ちたくないので歩きでお願いします」

 そんなに嬉しそうな顔をされたら断りにくいじゃないか。先に歩き始めると四鬼さんがさっと車道側へ滑り込む。

「桜子ちゃんは目立つの嫌い?」

「はい、嫌です。四鬼さんは好きなんですか? 四鬼さんの場合は意図せず目立ってしまうんでしょうが」

「好きというより、鬼は目立ってこそだからね。社会的脚光を浴びるポジション、例えばモデルや俳優業とかアイドル、実業家も鬼が好んで就く業種さ」

「スポーツ選手は?」

「あぁ、それはないな」

 ここは断言されてしまった。

「鬼はもともと身体能力高く、鬼の血はいわゆるドーピングみたいなもの。スポーツの分野で人間達と競うのは好ましくないだろう? 鬼が勝つに決まってる。
あっ、夏目君はサッカー選手になりたいんだったね」

「……はい」

「彼を鬼にしたら日々の鍛錬が水の泡となるだろう。それに夏目君だって鬼の力でサッカーが上手くなるのは本望じゃないはずだ」

 釘を差さんとする内容は承知していると、首を横に振る。

「わたし、もう涼くんの血は飲みません。本人にもそう伝えました。監視の人達に聞きませんでしたか?」

「あれは警護で監視じゃないよ。当主がお姫様に逃げられないよう配置したんだ。ふーん、それで泣き腫らした目をしてるんだ?」

 四鬼家には通り魔犯人の身代わりを用意できる権力があり、わたしなどが逃亡を企てたところですぐ捕まえられるだろう。

 ちなみにニュースでは四鬼病院が通り魔の被害者等の治療にあたり、社会復帰までケアすると伝えられた。
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