約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「りょ、涼くん? なんで? わたしを覚えてるの? ど、して此処に?」

「バカか、俺が忘れるはずないだろうが!」

「だって……」

「バカだな、忘れてるのはお前の方だろ。俺はお前が泣いてたら、何処にいたって見付けてやれる」

 涼くんが目の前に居て、わたしを抱き締めている。バカバカ言われても温かい気持ちになり、不思議と勇気が湧いてきた。
 腕を回して抱きしめ返せば涼くんが絞り出した声で告げる。

「俺はお前が鬼だろうと姫だろうと、そんなのどうだっていい。お前だから好きだ、お前じゃなきゃ意味がないんだ。
いい加減、分かれ。俺は鬼になったりしないから、絶対ならねぇから安心しろ」

 鬼になりたくないーー涼くんはわたしの為に言っていたんだ。鬼にしてしまうのを恐れてわたしが離れていくと分かって、鬼にはならないと言い切った。

 それなのにわたしは額面通り受け取り、真意を読み違える。

 涼くんの根底にある優しさに触れて熱い。満たされていく。

「ごめん、ごめんなさい。わたしには離れる事しか出来なかった。側にいたら傷付けて鬼にしてしまうから」

 もう意地を張らず、素直に飾らず訴える。

「あぁ、四鬼千秋とカウンセラーに話を聞かされた時、お前ならそう考えると思った」

「涼くんにサッカーを頑張って欲しかったの、夢をかなえて欲しかったの。人として幸せになって欲しかった」

「あぁ、家族みたいと言われて物足りないって突き放して悪かった。こんなになるまで想われながら足らないとは言えねぇ」

 あぁ、と相槌をうち、自分の気持ちも添えてくれ、すれ違いが解消されていく。
 当主に殴られたり蹴られた箇所を撫でられる。眉を下げ、柔らかい顔で傷の加減を伺われると泣いてしまいそう。

 滲む目尻を涼くんのシャツへ押し付けた。当主とは比べものにならない位の甘い香りに包まれ、切なくて焦がれる。

「鬼の当主だか知らないが、桜子を傷付ける奴は許さない」
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