約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 涼くんはわたしを庇い、当主と対峙した。相変わらず頼もしい背中だ。

「はぁ、裏切り者が忌々しい。ままごとなら外でやってくれないか?」

「出ていくならそっちだろうが。その前に桜子に謝れよ」

「私は謝らないし出てもいかない。夏目君、せっかく姫に助けてもらった命は大事にしないといけないよ」

 また暴力の気配がする。わたしは涼くんの袖を引っ張り、まともにやり合っても勝機がないと合図を送った。まして涼くんは病み上がり。

「……わたしに力が戻ればいいのに」

 鬼姫の力ならば当主と渡り合えるはず。

「血を飲めば動けるのか?」

 躊躇なく袖を捲くる涼くん。

「それは無理だよ!」

「今はそんな事いってる場合じゃない! 俺は鬼にならないから大丈夫だ」

「なんで言い切れるの?」

「……気合だ、気合! 気合で鬼にはならねぇ」

「気合って」

 こそこそ作戦会議していたが、結果的には根性論となる。当主は鼻で笑うとじりじり距離を縮め、まずは食器を投げ付けてきた。

 派手な音を立てて、皿やグラスが飛び散る。脆く透明な欠片はわたしの未来を暗示しているみたい。

「俺があいつを引き付ける。お前は逃げろ」

「できるはずないでしょ!」

「いいから血を飲め。で、回復したら逃げろ。お前は逃げてくれ」

「飲めないってば! それに逃げても無駄だよ。わたし、涼くんと一緒にいる、足手まといでも一緒に居たい! 2人で切り抜けよう?」

「……桜子」

 食器に続き、当主は椅子を軽々と持ち上げ叩き付ける。あえてわたし達へぶつけず、威嚇効果が増す。

「姫は矛盾してばかりだ。一族の母となる約束なのに、鬼ではないその青年と共にありたいと言う。一族との約束された結婚はしたくないが、鬼の力を利用しようとする。
姫の身勝手が周囲をどれだけ巻き込み、傷付けるのか鑑みるべきでは?」
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