約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 当主の言い分は正しい部分もあるが響いてこない。
 早くなんとかしないとーー危機感を募らす程、目の奥が熱くなってきた。

「一族はわたしが居なくてもやってこれたくせに。一族も約束に囚われてるだけ」

 貧血の症状がここにきて表れ、くらくらする。干上がったり肌がヒリヒリする。血を欲して、他を考えられなくなっていく。

「この運命ごと好きになるって四鬼さんが言ってくれたけれど、わたしには出来そうもないな」

 わたしは涼くんの背中から前に出て、当主に左手を翳す。

「わたしには指輪がない、四鬼さんと対となっているはずの指輪をしてないの」

「それが何だ? ーー!」

 赤い目を剝いて睨み付けたら、当主の動きを封じることが出来た。

「わたしはここから涼くんと一緒に出ていく。あなたの血でいいや。食い殺してしまったらごめんなさい。あ、でも食料だから仕方ないか」

 理性を焼き切ってしまえば当主と互角だろう。当主の血など飲みたくないが、我慢するしかない。
 圧に潰され蹲った当主の首筋をあらわにし、喉を鳴らす。

「桜子!」

 しかし、口を開けたところで涼くんの手に塞がれた。

「ん? むぐ!?」

「こんな奴の血なんか飲むな。飲むなら俺のにしろ!」

「んー、んー!」

 わたしは首を横に振る。

「俺は血を飲まれても鬼にならない。大丈夫だ」

 なんと言われようと、それだけは出来ない。涼くんを鬼にしたくないというのは理性ではなく本能なんだ。
 涼くんを押し返し当主へ襲いかかろうとするも腰を引き寄せられる。そのまま彼の顔が接近してきた。

「他の奴の血なんて飲ませたくねぇ」

 不意打ちのキスは血の味がする。
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