約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「ねぇ、涼くん。約束してもいいかな?」

 指切りのポーズをする。

「どんな約束?」

「約束をしない約束」

「なんだそれ」

「涼くんとは約束しなくても一緒に居たい、運命じゃなくても側に居たい。わたしはわたしの意思でここに居るの」

 涼くんは少し間を開けた。こんな約束などしたくないのかもと様子を伺うと、彼は仕方ないなと眉を下げる。

「約束や運命って言葉で桜子を縛り付けるつもりはないが、俺もそういうのに少しは憧れがあるんだけどな。いわゆる王子様ってやつ」

 照れ隠しで襟足を掻く。
 知る限り、ロマンチックな分野には全く興味がなさそうだった涼くん。それが王子様に憧れているなんてニヤけてしまう。

「な、なんだよ、似合わないって言いたいのか?」

「ううん、違う。涼くんは王子様だよ、わたしだけの王子様。それと騎士様だね。助けてくれてありがとう」

 小指がふんわり温かくなる。涼くんが絡めてくれていた。

「王子様で騎士様ね、そりゃあ忙しくて他の女に目移りする暇もないな」

「他の人って、もうーー」

 小言は最後まで続かなかった。悪戯なキスを仕掛けられ、言わせて貰えなかったから。

 凪いだ水面に月が浮かぶ。幼いわたし達の誓いを祝福するみたいに輝き、更に内なる声が響いてきた。

 ーー幸せになってね。

 わたし、鬼姫は約束に囚われ、いつしか幸せの意味を見失っていたんだよね。自由に、それこそ頬を掠めていく風みたいに生きていこう。
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