約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「い、いいの?」

「俺は隣を歩くな、なんて1回も言った覚えがないけど? お前が避けてるだけ。人の目を気にし過ぎて転んでも知らないぞ。あ、そうか、手を繋いで行きたかったんだっけか?」

 からかって手を繋ぐジェスチャーをすると、きゃあ! 周囲から悲鳴が上がったが、涼くんは相手にしない。

「わたし、手を繋ぎたいとは言ってない!」

「一緒に登校したかったんだろ?」

「う、うん、まぁ、そうだけど」

「ならいいじゃん、早く行くぞ。もたもたしてると遅刻する」

「……うん」

 遠慮しつつ並び、ばれないよう随分と広がった身長差を仰ぐ。

「実はね、昨日のお礼を言いたかったの。助けてくれてありがとう、涼くん」

「は? 改まって何だよ、気持ち悪いな」

「ちゃんと伝えないといけないなって」

 突然しおらしい態度をとったせいで、涼くんが眉をしかめた。自分でも素直に言えたと思う。なんとなく今、言わなきゃいけない気がしたんだ。

 それからわたし達は昨日の話は避け、差し支えのない会話をする。今週末、サッカーは練習試合があるそうで、新入部員の涼くんには出場の機会はないみたい。

 坂を上り校門が見えてくると、担任教師の姿があった。
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