約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 こんな風に涼くんのことが好きな人から意地悪されるのは初めてじゃない。その子達からしてみれば、わたしは気に入らないだろう。それは分かる。

 思い返せばレモンのはちみつ漬けを差し入れなくなった切っ掛けも、涼くんのファンに止めて欲しいってお願いされたから。

 高橋さんが想いを打ち明けるのは自由だ、わたしに止める権利などない。権利がないが、涼くんが高橋さんの気持ちを受け入れるのか考えるとモヤモヤした。

(なんだか、目の奥が熱いな)

 顔の反面へ手を当ててみたところ、汗や涙は出ていないのに関わらず濡れる感じがする。

「お願い、夏目君を開放してあげて。夏目君は浅見さんのお世話係じゃないよ」

 声は聞こえていても意味が届かなかった。それより目が熱くて仕方ない。視界が歪み、ぐらぐらする。

「浅見さん?」

「……」

 ぐるぐる景色がまわり、酔う。気持ちが悪い、吐きそうだ。

「浅見さんってば!」

「ーーさ、い」

 うるさい、甲高く呼ばないで。
 様子を覗き込まれた瞬間、高橋さんへの不快感がつま先から頭に向かって駆け抜けて気が逆立つ。近寄らないで、触られたら弾けてしまいそう。

 高橋さんと距離を取ろうとし、わたしは椅子から転げ落ちた。床がふにゃふにゃに歪み、柔らかく映る。

「ねぇ、大丈夫? 先生呼ぼうか?」

 高橋さんの指が頬に触れるか、触れないか。身体の中でぱちん、スイッチが押される。

「浅見さん?」

 わたしの名を呼ぶその首筋にーー噛みついてみたいと思ったんだ。
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