崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
***

「私だって、叶うものなら今すぐにでも結婚したいわっ!」

 突然響き渡った自分の声にハッとして、天莉(あまり)は目を覚ました。

 頬を涙が濡らしていて、ミディアムボブの髪の毛の耳元辺りまでもがしっとりと濡れそぼっている。
 夢を見ながら馬鹿みたいに泣いていたんだと、無意識に伸ばした指先が濡れたこめかみに触れた途端、胸の奥が苦しくなった。

 頭も、まだクラクラしていたけれど、エレベーターに乗っていた時ほどではないのは、身体を横たえているからだろうか。

 それよりも、今は泣いたせいで頭痛が酷い。

 見慣れない、クリーム色のドット柄(穴あき)ステンレススチール製天井(てんじょう)に、丸いシーリングライトが等間隔で点在しているのを思考回路の鈍った頭でぼんやりと眺める。

 恐らくそれだけでは暗いんだろう。

 視線を転じれば、要所要所――例えば大きくて立派な重役机(エグゼクティブデスク)の上や、会議机と椅子が置かれた辺りには吊り下げ型の照明器具があって、他所より明度が上げられているのが分かった。

 そうして、どうやら今自分がいる応接セットのソファー付近はそこまで明るくしなくてもいい場所らしい。付近に追加の照明器具は見当たらなかった。


(――って、ここ何処⁉︎)

 見るとはなしに、ひとしきり周りを見回した後でそのことに思い至った天莉(あまり)は、慌てて飛び起きて。

「あっ!」

 布団()わりにでもされていたのだろうか。
 如何にも高級そうなスーツのジャケットが、身体を滑って床へ落ちそうになる。

 空気が動いた瞬間、シトラス系のさわやかさの中に、ほのかなダージリンティの甘さを伴う色気ある香りが漂った。

 わけも分からないまま、天莉が慌ててそのジャケットを押さえようと身を乗り出したらグラリと視界が(かし)いで、上質な革張り応接ソファーから転落しそうになって。
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