崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
 そんな天莉(あまり)とは対照的に、(じん)の方はちょっぴり不機嫌。

 まぁ自業自得とはいえ、痛い目に遭わされたのだから仕方ないのだが。


***


「――で、あの男、一人にしてみたらどうだった?」

 〝あの男〟というのは風見(かざみ)課長のことだろう。

 机上に広げられたままになっていた小豆色(あずきいろ)の婚姻届をおざなりに畳んで端へ滑らせると、尽がすぐそばに立つ直樹へ視線を投げかけた。

高嶺(たかみね)常務の目論見(もくろみ)通り、六階へ向かいました」

「あの男、プライドだけは高いみたいだからな。あんだけコケにしてやったんだ。すんなりと引き下がってもらっては面白くない」

 天莉と尽を向かい合わせに座らせて、自分もどちらかへ着座するのかと思いきや、そこら辺はやはり秘書としての立場をわきまえているのだろう。

 直立の姿勢のまま直樹が今見てきたばかりのことを尽に報告した。

 そんな直樹に、尽がしたり顔で返すのを見遣りながら、天莉は懸命に思いを巡らせる。

 どうやら今の二人のやり取りから(かんが)みるに、自分が課長と一緒に退室させられなかったのは、風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)を単独行動にさせて泳がせたいという意図があったようだ。

(単に手を握り続けていたかったから、とか馬鹿みたいな理由じゃなくて良かった)

 そんなことはないと分かっていても、尽からの先程までの執着ぶりを思い出すと、ついそんなことを思わずにはいられない。


 口を挟んでいいものか戸惑ったけれど、同席させてくれているということは、天莉にも発言権が与えられていると考えても良いだろう。

 そう判断した天莉が、「六階って……」とつぶやいたら、
「営業課のフロアだね」
 尽が、即座に天莉の言葉を拾って繋いでくれた。

 元彼の博視(ひろし)の配属先だから、天莉もそこが営業課なのはよく知っている。

 でも――。
< 103 / 351 >

この作品をシェア

pagetop