崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
「使えるのに買い替え《《りゅ》》の、もったいない《《れ》》す」

 天莉(あまり)としては一生懸命話しているつもりなのに呂律(ろれつ)が回らない。

(さっき(あお)った残りのお酒がいけなかったのかも)


「それはそうなんだがね。キミとの夫婦茶碗(めおとぢゃわん)に憧れているだけなんだろうな、とか察してはくれないの? ホント(つれ)ないなぁ、天莉は」

 恥ずかしげもなくそう付け加えた(じん)に、天莉はやたらと照れてしまう。

「しょ、《《しょ》》んなこと言われても……」

 お酒のためばかりではなさそうな頬の火照(ほて)りにどぎまぎする天莉に、尽が追い打ちを掛けるみたいにプレゼンを続けた。

「それにね、天莉。知っているかい? そういう無駄な物欲が経済を回すんだ。言うなれば景気のために必要な欲望だね」

 (とど)めを刺すように眼鏡越し、極上の笑顔を向けられてそんな風に言われてしまっては、天莉に勝ち目なんてない。

 たかだか高嶺家(たかみねけ)の食器問題が、経済問題云々(うんぬん)にまで発展するだなんて。

「はぁ~、尽《《しゃん》》。言ってることはめちゃくちゃなのに……《《しょ》》んなにかっこいいとか反則《《れしゅ》》……」

 《《ぽわん》》とした頭は、日頃思っていても口に出来ないことを簡単に垂れ流してしまう。

 尽から『《《さん》》も要らない』と言われたことも失念して舌っ足らずで〝尽さん〟と呼び掛けていることにも気付けないまま、天莉はうっとりと隣に座る尽を見詰めた。

「俺は呂律(ろれつ)の回っていない無防備な天莉の方こそたまらなく可愛いと思うがね?」

 言うなり尽の手がスッと伸びてきて、天莉の手から(から)になっていた猪口(ちょこ)を奪い取った。

 そこで初めて、(私ってばお猪口(ちょこ)を持ちっぱなしで話していたのね)と気が付いた天莉だ。

 どうにも悲しいほどに頭が回っていないらしい――。


「だが、これ以上酔われたら色々忘れられてしまいそうで惜しい。――酒を飲むのはこの辺でやめにしておこうか、天莉」

 尽の言葉に、天莉は「そうですね(しょうれしゅね)」とつぶやいて「ふふっ」と声に出して笑うと、尽の肩にポスンッと額を預けた。

 尽の(まと)う甘い香りが、ぼんやりした脳に心地よく届いて……。

 天莉は酷く満たされた気持ちになってうっとりと目を閉じた。
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