崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
 今思えばあれをきっかけに玉木天莉という女性に興味を持ったし、自分の計画を遂行するパートナーに選ぶなら彼女が適任だとハッキリと自覚したのだが。

 一方、当の天莉が、これまでほとんど接点もなかったような男に突然そんな提案をされて、驚かないはずがないことも十二分に理解しているつもりだった。


***


「ふへ?」

 と言う、何とも間の抜けた声を発したのち、「……あ、あ、あ、あのっ。お、お、お、(おっしゃ)られている意味が分かりませんっ」と盛大にどもりながらも、当然のように拒絶の意思を含んだ言葉が返ってきたから。

 (じん)はそれも想定の範囲内とばかりに肩越し、背後に寝かせたままの天莉(あまり)をゆっくりと振り返った。

 そうしながらほんの少し眼鏡のブリッジに触れて、これ以上議論するのは(わずら)わしいんだがね?と言わんばかりに角度を直したのは、実は計算づくだ。

「――では聞くが、キミは今から自力で自宅まで帰り着けるのか? よしんば無事帰宅できたとして、風呂や食事にまで気を回せるゆとりがあるようには見えないんだがね?」

 反論の余地はないだろう?という吐息とともに眼鏡越し、わざと冷ややかな視線で見下ろせば、天莉がグッと言葉に詰まったのが分かった。

「俺が今ここにいるのは、たまたま忘れ物を取りに戻っただけに過ぎない。――明日も早いし、出来れば寄り道などせず真っすぐ家へ帰り着きたいんだがね。生憎(あいにく)こう見えて、体調不良の部下をそのまま見過ごしておけるほど冷血漢でもないんだよ。もちろん、キミが抵抗を感じる気持ちも分からなくはないが、俺の顔を立てると思って大人しく従ってはくれまいか?」

 実際にはここまで上がってきたのはたまたまなんかじゃない。

 二十二時(じゅうじ)前――。
 運転手に送られて、秘書とともに社用車で会社まで戻って来てみれば、いつもは電気が消えているはずの七階に明かりが灯っているのが見えて。

(あれは……位置的に見て総務課か?)

 元々はそのまま自分の車に乗り換えて帰宅するつもりだった尽だが、こんな時間まで一体誰が仕事をしているんだろう?と気になってしまった。
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