崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
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 親睦会のあったあの日。


 直樹が手配してくれたロイヤルスイートルームで(じん)とともに濃密な一夜を明かした天莉(あまり)は、翌日尽に連れられて、アスマモル薬品が経営している企業立の『明日葉(あしたば)総合病院』へ連れて行かれた。

 ドレスのまま動かないといけないかと思った天莉だったけれど、その辺はさすがと言うべきか。

 ルームサービスで朝食を済ませて一息ついたころ、尽の呼び出しで部屋を(おとな)った直樹が、尽の替えのスーツだけでなく天莉の着替えも用意して来てくれた。

 カーキ色のマキシ丈ワンピースと、白のボレロカーディガンは、先日尽と一緒に行った店から取り寄せたのだろうか。
 カジュアル系だけどドレスと同じブランドのもので、言うまでもなくサイズもぴったりで。

 直樹はそれだけではなく、天莉がフロントのクロークに預けていたスプリングコートや荷物も回収してくれていた。

 ホテルから病院までの移動は、いつも尽を乗せている高級車(センチュリー)ではなく、普通にタクシーを呼んでくれたことにも心底ホッとさせられた天莉だ。

 名前に〝アスマモル〟を冠していなかったので知らなったけれど、そう言えば天莉が勤める『株式会社ミライ』の健康診断でも、明日葉総合病院を指定されていたな、と思って。

 実は天莉が知らないだけで、他にもアスマモルグループ傘下(さんか)の何かがあるのかも知れない。

 尽は天莉の疑問を察したのか、「もしかしてアスマモルの系列、他にもまだ何かあるかも、とかと思ってる? この病院とミライの他にはドラッグストアくらいしかないから安心して?」とククッと笑った。

「まぁ、不動産は沢山所有してるけどね」

 そう付け加えて笑った顔が、まるで困った身内の話をするみたいに見えた天莉は、尽は『アスマモル薬品』の人間なのだと改めて実感させられて。

 尽が元々はアスマモル薬品の社員だったことを知った後で、天莉は彼自身から開発研究部所長をしていたことも聞いていたから。

(所長さんって……会社の内部事情にも詳しいものなのかな?)

 ずっと平社員できた天莉にはその辺りが良くわからないけれど、〝らしい〟という言い方をしなかった尽に、そんな風に思って。

「そっか……。私、親会社のことなのにアスマモル薬品のこと、何にも知らなかったんだなって……ちょっと恥ずかしくなっちゃった」

 ポツンとつぶやいたら「普通はそんなもんだよ」と眼鏡越しに優しく微笑まれた。
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