崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
 妻を亡くしてからミライの社長に就任するまでの十数年間、雄太郎(ゆうたろう)(ひらく)の右腕として(つか)えていたのは(じん)の記憶にも、直樹の記憶にもしっかりと刻まれている。

 直樹は、兄弟同然に一緒に育った幼なじみの尽のことを、父と(ひらく)の関係みたいに補佐したいとずっと考えていたらしい。

 アスマモル薬品で尽とともに働いていた直樹が、ミライへの出向にも付き従うと申し出たのは半ば必然で。

 (ひらく)も雄太郎も、そんな二人の意志を最大限に尊重する形でミライでの(ポスト)を用意してくれた。


***


 そんな話を病院の一室で(じん)から淡々と聞かされた天莉(あまり)は、情報量の多さにただただ驚くばかりで何も言えなくて。

玉木(たまき)天莉(あまり)さん。わたくしの管理が行き届かないばかりに、辛い目に遭わせてしまって本当に申し訳ありませんでした」

 尽が一通り話し終えるなり、全責任は自分にあると丁寧に頭を下げてきた田母神(たもがみ)(ひらく)に、天莉はただただ慌ててしまう。
 そればかりか、隣に立つ尽まで父親に(なら)って同じようにするから。

「あ、あのっ、私……ホントにもう大丈夫なのでっ。お顔を上げて下さい」

 天莉はベッドから立ち上がると、オロオロしながら二人に寄り添った。

「……天莉、スリッパも履かずに」

 そんな天莉をすぐさまベッドへ座らせて、尽がポケットから取り出したハンカチで足の裏を拭う。

「あ、あのっ、(じん)くんっ、そんな……ハンカチが汚れちゃうっ」

 いきなりの下僕ぶりにソワソワさせられまくりの天莉(あまり)と、甲斐甲斐しくフィアンセの世話を焼く(むすこ)を黙って見詰めていた(ひらく)が、ほうっと吐息を落とすのが聞こえて。

 天莉は恥ずかしさに懸命に足を引っ込めようとしたのだけれど、尽の手がしっかり足首を(とら)えていて叶わない。

「じ、尽くん! お父様が見ていらっしゃるからっ!」

 泣きそうな声でそう告げるなり、(ひらく)がふわりと天莉に微笑みかけた。

「天莉さん。情けない話ですが、わたくしも妻も、この子が本当の意味で幸せな結婚するのを諦めておりました。親のわたくしが言うのも何ですが……この容姿です。モテるくせに遊ぶばかりで……本気の相手を作ったところを見たことがありませんでしたので」

 (ひらく)の言葉に、尽が「父さん、天莉に要らないことを吹き込まないで頂けますか?」と牽制(けんせい)したのだけれど。

 (ひらく)はそんな尽をちらりと見遣るとふっと顔をほころばせて、「手のかかる子ですが、尽のこと、よろしくお願いします。――わたくしも妻も、天莉さんが家族になってくれること、心待ちにしておりますので」と天莉の手を握った。

「はい……」

 天莉が答えるより先に、尽がその手を振りほどかせたのは言うまでもない。
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