崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
「それで……あの……彼らはもう……ホントに会社には戻って、こられない?」

 『沖村さんと伊崎さん、二人の欠員の穴埋めがまだされていないのは何故だろう?』『まさか服役後に戻すつもりなのかな?』……などと、歓迎会の時に先輩たちが噂話をするのを天莉(あまり)は小耳に挟んでしまったのだと言う。

 ミライの方では速やかに江根見(えねみ)父娘(おやこ)や、風見の拘束によって空いた穴への欠員補充が行われたのに、アスマモルの方はそれがまだなのだ。

 事情を知らない人たちが面白おかしく噂する話を、そんなことはあり得ないと頭では分かっていても、もしかしたら本当に二人が戻ってくるのではないかと天莉(あまり)(おび)えたって不思議ではない。
 だって天莉は、彼らからの性被害に遭いそうになった当事者なのだから。

 ただ単に、ふさわしい人材がなかなか見つからなくて選考が難航しているだけに過ぎないのだが、怖い目に遭わされた天莉は、もしかしたら……と考えてしまうことをやめられなかったんだろう。


「天莉。俺はキミの不安な気持ちにちゃんと寄り添えていなかったんだな。気付けなくて本当にすまない。彼らは懲戒解雇になっているからね。絶対に会社へ戻ってくることはないから……そこは安心してくれていいんだよ?」

 懲戒解雇は会社からの死刑宣告とも呼ばれる最も重い懲戒処分だ。
 仮に刑期を終えて社会復帰出来たとしても、前科有りな上、離職票には「重責解雇」と記されるため、再就職自体極めて厳しくなるだろう。

 気にしぃなところがある天莉が相手だ。
 さすがにそこまで告げたら変に気に病む可能性もあったから、アスマモルへ戻ってくることは絶対に有り得ないとだけ太鼓判をおした尽だ。

 天莉はそうされてやっと、ホッと肩の力を抜いた。


「旅行から戻った後、安心して会社に戻れそうかい?」

 尽の問いかけに天莉がコクッとうなずいてくれて。

 尽はそんな天莉をコーヒーカップ越しに見詰めながら、だけど出来るだけ早く天莉を〝会社から合理的に引き離してしまいたいな〟と思った。
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