崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
「じゃあ早速なんだが――」

 ソファーに腰かけた天莉(あまり)の目の前に置かれたローテーブル下から、(じん)がA4サイズに二つ折りされた書類を取り出して見せる。

「このキッチンを、天莉が心置きなく使えるようにするための話をしようか」

 薄浅葱色(うすあさぎいろ)を縁取り背景に、白黒印刷で書類の雛型の枠が、その枠外に可愛い絵柄で様々な猫の顔が縦横無尽に散りばめられたその書類は、天莉にとてもコミカルな印象を与えた。
 薄浅葱色の部分に〝Monochrome(モノクローム) Cats(キャッツ)〟と筆記体で書かれたその書類は、猫グッズ好きの天莉の心を刺激して。

 思わず手に取って「可愛い」とつぶやいた天莉だったけれど、猫の絵柄に紛れるように書かれた〝婚姻届〟の文字を見つけて一瞬にして凍り付いた。

 それを意識してよく見直してみると、〝夫になる人〟の欄が全て、小学校で使った書写のお手本顔負けの読みやすい綺麗な字で埋められていて。

「キミは猫グッズが好きだろう?」

 だからそれにしたんだ、と言わんばかりの口調で告げられて、「えっ」と尽の方を見たと同時。
 とても自然な動作ですぐ左隣に腰かけられてしまう。

 左半身へ突如感じた尽からの熱に、慌てて立ち上ろうとした天莉だったけれど。
 本調子じゃない身体がクラリ眩暈(めまい)を訴えて、逆に尽に寄り添うみたいにくっ付いてしまった。

「ごめ、なさっ」

「構わないよ」

 慌てて身体を離そうとしたのに、すかさず尽からギュッと手を握られ肩を抱かれた天莉は、触れた所から激流のように流れ込んでくる尽の温もりに、ますます身動きが取れなくなった。
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