崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
***

「失礼するよ」

「えっ、あ、はいっ。……どうぞっ」

 背後から掛けられた言葉に思わずそう返してはみたものの。

(何でこんなことになってるのっ)

 天莉(あまり)の頭の中はそんな疑問で一杯だったりする。

(私のバカっ)

 自分のすぐそばに立つ、長身の(じん)をチラチラと見遣りながら、天莉は数分前の自分を(ののし)らずにはいられない。


***


 実は先ほど尽のマンションで、自宅に残している植物たちの心配をした天莉に、尽がこともなげに言ったのだ。

『だったら、それを取りに行くついで、当面の生活必需品も一緒に持ち帰ってくればいいんじゃないか? そうすれば《《無駄な買い物》》もしなくて済むし、キミも使い慣れたものを使える。――一石何鳥(いっせきなんちょう)にもなるとは思わんかね?』
 と――。

 それは必然的に〝俺のマンションに長期滞在しろ〟と示唆(しさ)されているのと変わらなかったのだけれど、余りにさらりと告げられたので、そこまで思い至るゆとりがなかった天莉だ。

 加えて、無駄が省けると言う文言に過剰反応した天莉は、半ば無意識に「はい」と答えてしまっていた。

 だって――。

 たかだか一泊のために『これ《《が》》欲しい!』と(こいねが)ったわけでもない下着を買うのに、抵抗があったから。


 ――外食はもったいないしさぁー。俺ん()で天莉が作った(めし)食おうぜ? お前、結構料理うまいじゃん? な?

 ――外に出掛けたら疲れるしさ。そもそも無駄に金使っちまうだろ? そういうのって勿体ねぇと思わねぇ? 俺、仕事で外ばっか出てるしさぁ、休みの日ぐらい家でのんびり過ごしてぇんだわ。天莉なら分かってくれるだろ?


 お互いフルタイムで働いていたし、決してお金がなかったわけじゃない。

 だけど。

 付き合い始めて三年が過ぎたころから、ことある毎に『もったいない』を免罪符のように使っては、天莉との外出を避けるようになっていた博視(ひろし)との日々が、天莉にもったいない精神を植え付けるようになっていた。
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