崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
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 玄関近くの壁には備え付けの姿見があって、出掛けにちらりとファッションチェックが出来るのも天莉(あまり)は非常に助かっているのだけれど。

 ベランダの方へ歩いて行く(じん)の後ろ姿をチラリと見遣りながら、(高嶺(たかみね)常務がここで全身チェックをしようと思ったら、今みたいに結構鏡から離れなきゃ無理だよね?)とか、(でも離れ過ぎたらよく見えなくなっちゃう?)などとどうでもいいことを思ってしまった天莉だ。

(ちょっ、私ったら何考えてるの!? 常務がここから出社することなんてないんだから関係ないじゃないっ)

 すぐさま詮無(せんな)いことを考えたと頭からその思いを吹き飛ばしたのだけれど。

 実は天莉、ここには博視(ひろし)を数えるほどしか呼んだことがない。
 その少ない回数の中で、一度だけ泊まったことのある博視が、『姿見が小さすぎて不便じゃね?』と文句を言ったことがあるのだ。
 天莉自身はお小言の多かった博視が言ったことなんてそんなにいちいち覚えていないし、実際いまもそのことを思い出したわけではないのだが、頭の端っこに残っていたのかも知れない。

 ここへ博視をあまり呼ばなかったのだって、IHクッキングヒーターが一つ口しかないことを、『お前ん()だと料理の効率が悪い』とグチグチ言われたからだ。

 実際にはカセットコンロや電子レンジを併用したり、予め作り置きしていた常備菜を使ったりして博視に不便な思いをさせたことはなかったはずなのだが、今思えば、博視はもっともらしい理由を付けて天莉の家まで出向くのが面倒臭かっただけなのかも知れない。
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