崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
 博視(ひろし)天莉(あまり)をデートに誘う時は、基本食事も作って欲しいと強請(ねだ)るのがセットだったので、二つ口のガスコンロがある博視の家に、《《自宅である程度食べられる形にした》》料理を持って(おもむ)くのがパターン化していた。

(お惣菜を取り分けて運んでたタッパー、もうあんなに要らないよね。……落ち着いたら捨てなきゃ)

 食器棚の大半を占めているタッパー容器が視界の端に入って、じわりと瞳に涙の膜が張る。

 料理を作るのはもちろん、それを持って遊びに行くのもそれほど苦ではなかったけれど、考えてみたらここ一年くらいは、博視から「有難う」も「美味しいよ」の言葉ももらえていなかったことを思い出した天莉だ。

 付き合い始めの数年は一緒に出掛けることも、ついでに外食して帰ることも割と多かった博視とのデートだけれど、天莉が作った弁当を持ってピクニックへ行ったこともある。

 何かを口に放り込むたび『美味い!』と言ってくれたり、差し出した弁当を笑顔で受け取って『わざわざ作って来てくれてサンキューな』とか(ねぎら)ってくれていたのはいつが最後だっただろう。

(博視、江根見(えねみ)さんとはいつぐらいからお付き合いしてたのかな)

 増えたタッパーの数だけ、博視が紗英(さえ)との逢瀬を重ねていた気がして、ギューッと胸の奥が締め付けられた天莉だ。


「――なぁ天莉。この土だけの鉢は何だい?」

 ふと仄暗(ほのぐら)い思いに捕らわれてポロリと涙を(こぼ)した天莉に、(じん)から声がかかる。

 尽がベランダからヒョコッと顔を覗かせたのを見て、慌てて顔を伏せて涙をそで口で拭うと、天莉はベランダへ急いだ。
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