崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
 一階に向かいたいと意思表示をしなかったのに、《《先に箱へ乗り込んでいた》》男性は何も聞いてはくれなかったし、自分も立っているのがやっとで操作パネルに触れていなかった。

(あ、……れ?)

 そこで、天莉(あまり)は今更のように当たり前のことに気が付いた。

 下へ向かうエレベーターならば、箱内に乗っている可能性があるのは天莉のいた階からだと重役か、あるいは彼らのフロアに用があった人のみ。

 よくよく考えてみれば、この会社に勤め始めて五年。
 階下へ向かうとき、エレベーター内に先客がいたことなんて、数えるほどしかなかった。


「あ……」

 思わずつぶやいて開いたドアの先、長々と続く重厚な雰囲気のカーペット敷きの廊下を見た天莉は、思わず小さく声を落としていた。

 この、明らかに他の階のライトな雰囲気のタイルカーペットとは一線を画した、重々しい色調の廊下。

(やだ、ここ、最上階……!)

 ぼんやりしていたとはいえ、何の用もない一介の平社員が上がってきていいフロアではない。

 そう言えばさっき天莉は、エレベーターホールで手探りに呼び出しボタンを押した。
 多分その時、「()」を押したつもりで、「()」を押してしまったんだろう。


「――降りないのか?」

 箱の中で真っ青になって固まっている天莉を不審に思ったらしい。

 ピカピカに磨かれた《《高級そうな》》革靴を履いた男が、初めて天莉に声をかけてきた。

 重々しさの中にも艶気(つやけ)を含んだ、低く男らしい声に鼓膜を揺らされて、

「あ、あの、私……」

 ――申し訳ありません! 昇りと(くだ)りを間違えて乗り込んでしまいました!

 そう申し開きをすべく手すりを離して顔を上げたと同時、目の前がスーッと暗くなった。
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