崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜
「風見課長は私の大事なフィアンセの《《上司》》でいらっしゃいます。貴方は総務課内において、《《社員同士の先輩後輩などと言った縦の繋がり》》をとても大切にしておられると、そこの伊藤から報告を受けていましてね。この証人欄はそんな貴方だからこそ、是非とも埋めて頂きたいのですよ」
尽の声はとても穏やかだったけれど、それは暗に教育係だったからという繋がりだけで、いつまでも江根見紗英の仕事を先輩である天莉に押し付け、尻拭いさせていることを自分は把握していますよ、と示唆しているようにも聞こえて。
目の前で課長がヒュッと息を詰めたのが分かった。
「た、まきくん、もしかしてキミ、高嶺常務に……」
その気まずさの矛先を天莉に向け、まさか恋人へ《《告げ口》》をしたのか?と問おうとでもしたのだろうか。
どう責めるべきか逡巡した様子で言い淀んだ課長へ、「玉木さんからは何も上がってきていませんよ? ひょっとしてわたくしが高嶺常務へ報告したことに、《《何かまずいこと》》でもございましたでしょうか?」と直樹が割って入る。
「あ、いえ、別にまずいことなど――」
直樹の助け舟に課長が慌てて口をつぐんで。
「――おや? やけに汗をかいておられますね。もしかして部屋の換気がよくありませんでしたかな?」
変な汗をかきながらギュッと身体を縮こまらせた課長に、尽が追い打ちをかけるようにそんな声を掛けるから。
課長は「だっ、大丈夫です! とても快適であります!」と下級兵のように答えながらますます小さく萎んでしまう。
天莉は課長のそんな姿を見て、少しだけ溜飲が下がった気がして。
震える手で、猫の婚姻届では空きのままなはずの『証人欄』に、〝風見斗利彦〟という課長の名前などが埋められていくのを存外穏やかな気持ちで見守ることが出来た。
だって、きっといま目の前で書かれている小豆色の書類は、課長に圧を掛けるためだけに用意された偽物に違いないと確信できたから。
課長が使っている、会社から支給されている安いボールペンを見詰めながら、(本当に信頼している相手になら、高嶺常務はご自分のペンをそのまま手渡したはずだもん)とさえ思ってしまった。
尽の声はとても穏やかだったけれど、それは暗に教育係だったからという繋がりだけで、いつまでも江根見紗英の仕事を先輩である天莉に押し付け、尻拭いさせていることを自分は把握していますよ、と示唆しているようにも聞こえて。
目の前で課長がヒュッと息を詰めたのが分かった。
「た、まきくん、もしかしてキミ、高嶺常務に……」
その気まずさの矛先を天莉に向け、まさか恋人へ《《告げ口》》をしたのか?と問おうとでもしたのだろうか。
どう責めるべきか逡巡した様子で言い淀んだ課長へ、「玉木さんからは何も上がってきていませんよ? ひょっとしてわたくしが高嶺常務へ報告したことに、《《何かまずいこと》》でもございましたでしょうか?」と直樹が割って入る。
「あ、いえ、別にまずいことなど――」
直樹の助け舟に課長が慌てて口をつぐんで。
「――おや? やけに汗をかいておられますね。もしかして部屋の換気がよくありませんでしたかな?」
変な汗をかきながらギュッと身体を縮こまらせた課長に、尽が追い打ちをかけるようにそんな声を掛けるから。
課長は「だっ、大丈夫です! とても快適であります!」と下級兵のように答えながらますます小さく萎んでしまう。
天莉は課長のそんな姿を見て、少しだけ溜飲が下がった気がして。
震える手で、猫の婚姻届では空きのままなはずの『証人欄』に、〝風見斗利彦〟という課長の名前などが埋められていくのを存外穏やかな気持ちで見守ることが出来た。
だって、きっといま目の前で書かれている小豆色の書類は、課長に圧を掛けるためだけに用意された偽物に違いないと確信できたから。
課長が使っている、会社から支給されている安いボールペンを見詰めながら、(本当に信頼している相手になら、高嶺常務はご自分のペンをそのまま手渡したはずだもん)とさえ思ってしまった。