排他的に支配しろ
今日も崇拝対象として仕事をこなしに出ていく《支配》を窓越しに眺めていたら、おれの視線を見つけた彼女が笑顔で手を振ってきた。
自分が何をさせられているかもわかってない、無垢な笑顔。
知らないふりをし続けるのも楽じゃない。
「別に。哀れんでるだけ」
「僕は幸せそうだと思うけど。でも、気付かせるなら早い方がいいよね」
「……」
「そういうことじゃなかった?」
《支配》の笑顔を見ると……安心する。
おれの、唯一の希望。
彼女からしてみればこの生活は普通で平和な日常だ。
それを壊して、おれ達と同じところへ引きずり下ろすのは、彼女を不幸にしてしまうだろうか。
いや、そんなことで不幸になんてさせない。
おれは知ってほしい。おれはこんな日々を幸福とは思わない。
無知であり続けるのはやめた方がいい。
「よければ協力してほしいんだよね。先生達の目を盗まなくちゃいけないし、《心理》が一番動けて、頭が良いから」
「《正義》は、死にたいってこと?」
「僕らに死より確実な自由はない。生まれた時点で地獄だった。どうするのが正解かなんて明白だよ」
──こうしておれは、《正義》の提案を手伝うこととなった。