排他的に支配しろ
《健忘》
✦
✦
白い石を右上に置いたら、たくさんひっくり返せる……!
ついに勝機が見えて角へ腕を伸ばした。
その後の、勝敗はどうなったのだろう。
眠りから覚めるとき、何よりも生を実感する。意識を手放している状況こそ、死と同等の感覚であると感じるからだ。
ふっと意識が降りてまぶたを開くより先に、嗅覚を取り戻した。
嗅いだことのある香りだ。苦味があってくらっと来るけれど、なぜか安心する。
記憶が途切れる直前も、こんな感じの匂いがしたような……。
もっと近くで確かめたくて、手繰り寄せた。
「……はは、積極的~」
固い壁が手に当たると同時、困ったような声が聴覚を刺激する。
そこでようやく、視覚を解放してみれば。
「起きたんだ、りん」
──わたしの背中に手を回す春日さんがそこにいた。
顔を胸板に押し付けられ、一層濃い香りを取り込むことになる。
「春日、さん。その……離れ、」
「りんから引っ付いてきたんだけどな~」
「あ、っぅ……」
香りに酔って、力が入らない。その上、妙に中毒性があるのか離れがたくて。
だから、春日さんから離れてもらわないと終わらないのに……。
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白い石を右上に置いたら、たくさんひっくり返せる……!
ついに勝機が見えて角へ腕を伸ばした。
その後の、勝敗はどうなったのだろう。
眠りから覚めるとき、何よりも生を実感する。意識を手放している状況こそ、死と同等の感覚であると感じるからだ。
ふっと意識が降りてまぶたを開くより先に、嗅覚を取り戻した。
嗅いだことのある香りだ。苦味があってくらっと来るけれど、なぜか安心する。
記憶が途切れる直前も、こんな感じの匂いがしたような……。
もっと近くで確かめたくて、手繰り寄せた。
「……はは、積極的~」
固い壁が手に当たると同時、困ったような声が聴覚を刺激する。
そこでようやく、視覚を解放してみれば。
「起きたんだ、りん」
──わたしの背中に手を回す春日さんがそこにいた。
顔を胸板に押し付けられ、一層濃い香りを取り込むことになる。
「春日、さん。その……離れ、」
「りんから引っ付いてきたんだけどな~」
「あ、っぅ……」
香りに酔って、力が入らない。その上、妙に中毒性があるのか離れがたくて。
だから、春日さんから離れてもらわないと終わらないのに……。