排他的に支配しろ
《献身》


 部屋に、光の筋が差し込む。

 現れたその人は、ゆっくり歩を進めてわたし達を見下ろした。

 身にまとった黒いスーツが、わたしを押し倒すルイくんに影を作る。


 どうして。

 だって、今日は帰って来ないんじゃ……。



「こら、なにやってんの」



 彼──春日さんはその場でしゃがんで、コツンとルイくんの後頭部を小突く。

 衝撃で、わたしの胸元にぽたりとシミができた。苦しそうなルイくんの嗚咽が聞こえ始める。



「カスガ、くん……っ」

「……うん、どうした?」



 相槌の声は優しい。

 さらに助長させる原因になったのか、ぐしゃぐしゃになったルイくんから涙の粒が降り注ぐ。



「っ……ぼく、できなかった……」



 そう言うと、わたしから離れた。部屋の端に体を引きずらせ、じっと丸まる。


 ルイくんはずっと辛そうだった。

 わたしもどうするのが正解かわからなくて、思わず身を任せる選択をしまったけれど。

 春日さんが来たとき、ほっとしているように見えたのだ。


 助かったのは、わたしだけではないかもしれない。


< 93 / 171 >

この作品をシェア

pagetop