ホワイトデーの恋人
亜希くんと出会ってしばらく経った。
私は最初はそれこそただのファンだったものの、亜希くんの優しさや温かさに触れてだと思う。
亜希くんの事が心の底から好きになっていた。
まさに私たちは今、友達以上恋人未満の関係になっていた。
付き合えばいいのに、と思うかもしれない。
でも、残念な事に亜希くんが所属するチームは恋愛禁止なのだ。
なので私たちはお互いに愛を育みつつ、友達という関係で歩みを揃えている。
そんなある日のこと。
私と亜希くんは久しぶりに2人が出会ったバーに行って、近状報告などをした。
しばらく2人で飲み進めていると、亜希くんが急に真剣な眼差しで私の方を見てきた。
そして
「香織、あのさ」
と何かを言いかけたが、亜希くんは言葉を詰まらせた。
「どうしたの?」
と問いかけると、ふうっと息を吐いてから
「俺さ、フランスのチームでプレイすることになったんだ」
とキラキラした瞳で答えてくれた。
私はバレーボールが超がつくほど大好きなのでもちろん強豪国がどこなのかくらい知っている。
フランスはなかなかの強豪国だ。
そんなところで亜希くんがバレーをできると思うだけで舞い上がってしまいそうだ。
私はオシャレなバーには似合わないくらいの大きな声量で
「すごっ!さすが亜希くんだね!」
なんて子供みたいな語彙力で喝采を送った。
亜希くんはあの柔らかい笑顔で、
ありがとうと笑ってくれた。
でもその笑顔には切なげな雰囲気が漂っていて、不思議になった。
「亜希くん?どうしたの?嬉しくない?」
そう聞くと
「嬉しいよ!世界で活躍できるなんて思わなかったし。でも、」
「でも?」
「…フランスに言ったら、香織に会えなくなる。それが、その、悲しくてさ」
なんて、いつもは1枚上手な亜希くんには似合わない言葉が聞けて嬉しい半面、私にも寂しさがあった。
それでも私は亜希くんを支えていたい。
亜希くんが安心して出発できるように。
「確かに、私も悲しいし寂しいけど、亜希くんには夢に全力であって欲しい。」
そう本心を伝える。
亜希くんはまた目を丸くして私の方をじっと見ていた。
しばらくすると
「そっか、香織がそう言うなら俺もクヨクヨしてられないな。」
そう言って意気込んでいた。
私はそんな亜希くんを見てすごく誇らしくなった。