ホワイトデーの恋人
あの日から2ヶ月。
亜希くんの出発の日が来た。
私は空港まで見送りに行った。
その日は丁度バレンタインだった。
私は不器用ながらも頑張って作ったチョコを亜希くんに手渡した。
「これ、もらって良いの?」
なんてまるで子犬のように喜ぶから思わず笑ってしまった。
亜希くんは顔を赤く染めて、口元を手で押さえていた。
「ごめん。でもすごく嬉しくて」
といつもの柔らかい笑顔で言ってくれる。
あぁ、この人はずるいな。
本当に思う、心の底から。
置いていかないで欲しいと思う心の裏で強く強く愛しているという思いが溢れ出てくる。
その溢れ出た思いは涙となって私の頬を伝った。
「あれ、ごめんなんでだろ」
ははは…。なんて下手くそな作り笑いを浮かべていると、亜希くんは何も言わずにゆっくりと私を抱きしめた。
「大丈夫。出来るだけ早く帰ってくるから」
亜希くんはそう耳元で囁くと、
「もう時間だ。行ってくるね香織」
とまた私の額にキスを落として、飛行機の方へ歩いて行った。
「亜希くん!行ってらっしゃい!」
そう呼びかけると亜希くんは手を振って歩き始めた。
私は静かに流れる涙を拭いながら、空港を出た。
空を見上げると、亜希くんが乗っているであろう飛行機が空を鳥のように飛んで行った。
その飛行機に向かって私は手を振り続けた。