失恋のカノン
私は絶対私ではないという何気ない根拠と私だったらどうしようという不安を抱えた。
彼はただ真っ直ぐに寄り道なんてことをせず、ぴったりと私の目の前に来て座っていた私を見下ろした。
その目は何の温度も見えなくて、息が詰まりそうだった。それと同時にわかったことがある。私は彼の感情はピアノを通してでしか分からないのだと突きつけられた。彼は静かな声ではっきりと聞いた。
「中丸香音であってる?」
「…はい」
返事をすると、彼は淡々と続けた。
「俺、ピアノやめるんだ」
途端に視界が滲んだ。滲んで思わず両目を閉じると、頬に一筋濡れた感触を感じた。
彼がピアノをやめることで私にはなんの影響もでないはずなのに、どうしてこんなにも悲しいのだろう。
彼の声は一切の迷いがないようで、その様子は後悔など微塵もしていないようだった。瞼をあけると、さらに思いが溢れてしまった。はらはらと机に水たまりをつくる。クラスメイトは動揺したように一瞬よどめいたが、瞬時に静まり返った。誰もがこの異質な状況の成り行きを見守っているようだった。ただそんなもの気にはならなかった。
彼はただ真っ直ぐに寄り道なんてことをせず、ぴったりと私の目の前に来て座っていた私を見下ろした。
その目は何の温度も見えなくて、息が詰まりそうだった。それと同時にわかったことがある。私は彼の感情はピアノを通してでしか分からないのだと突きつけられた。彼は静かな声ではっきりと聞いた。
「中丸香音であってる?」
「…はい」
返事をすると、彼は淡々と続けた。
「俺、ピアノやめるんだ」
途端に視界が滲んだ。滲んで思わず両目を閉じると、頬に一筋濡れた感触を感じた。
彼がピアノをやめることで私にはなんの影響もでないはずなのに、どうしてこんなにも悲しいのだろう。
彼の声は一切の迷いがないようで、その様子は後悔など微塵もしていないようだった。瞼をあけると、さらに思いが溢れてしまった。はらはらと机に水たまりをつくる。クラスメイトは動揺したように一瞬よどめいたが、瞬時に静まり返った。誰もがこの異質な状況の成り行きを見守っているようだった。ただそんなもの気にはならなかった。