バニラな恋に恋焦がれて
触れる唇
○学校・グラウンド(朝)
テストが終わり、体育祭がやってきました。
運動がそんなに得意ではない美郷は、全員参加種目の大縄とクラス別対抗リレー、選択種目の綱引きに出ることになった。
仲良しの来実も一緒。
学年別で色違いなジャージを着て、グラウンドに全校生徒が集まっている。
天気は晴天。
絶好の体育祭日和。
みんな気合いが入っていた。
体育祭委員「これより、第63回体育祭を開催いたします!」
体育祭委員の言葉で周りがわぁっと盛り上がる。
来実「頑張ろうね、美郷ちゃん」
美郷「うん、頑張ろう」
最初の種目は大縄跳び。
実は一番苦手な競技が大縄跳びの美郷。
縄に引っかかってしまわないか、ドキドキしていた。
大縄の隣にピッタリのとくっついて並ぶ。
体育祭委員「3分間何度跳んでもかまいません。その中で一番跳べた回数がそのクラスの成績になります。準備はよろしいですか?行きますよ!よーい、スタート!」
体育祭委員の声でいっきにみんなの目の色が変わる。
男子生徒「行くぞ!そーれ!」
大縄を回すクラスメイトが掛け声をかける。
それに合わせてみんながタイミングをとる。
練習の時には引っかかって止まってしまうのが早かったけれど、今日は順調だ。
回数を跳んでいくにつれて、足が上がらなくなってくる。
美郷(つらい……でも、頑張らなきゃ)
足を引っ張るわけにはいかない。
必死に足を上に上げた。
ピピーッ!
笛の音が鳴る。
競技終了の合図だ。
結果発表を待つためにその場に体育座りをして待つ。
息が上がっていて、呼吸をするのがやっと。
数回止まってしまったけれど、クラスの新記録は達成した。
本番ということもあって、クラスみんなの団結力が深まっていたと思う。
体育祭委員「結果を発表します。1組、54回。2組、46回───」
私たちは3組に負けて、第2位の成績だった。
随分と健闘した方だ。
みんなは自分たちに拍手を送った。
次の1年生の競技は、男子による騎馬戦。
それには、怜も参加する予定だった。
競技が始まる頃には、ギャラリーがたくさんできていた。
来実「やっぱり桐嶋くん人気だね」
美郷「うん、そうだね」
来実「もちろん美郷ちゃんが応援するのは桐嶋くんだよねーっ?」
美郷「う、うん」
美郷(仮にも彼女なんだから応援しないと、だよね)
みんな名前を呼ぶのは怜。
女子生徒1「桐嶋くん頑張れ!」
女子生徒2「怜くーん!応援してるよー!」
それはクラスを飛び越えて敵のクラスの女の子たちも怜を応援するほど。
他クラスの男子生徒は、文句を漏らすほど。
怜は騎馬のトップ。
頭に巻いたハチマキがとっても似合う。
美郷(ハチマキを巻いてもかっこいいなんて、さすが桐嶋くん)
美郷「頑張れ、桐嶋くん」
そんな声は他の女子生徒たちの声に消されてしまったけれど、確かにその瞬間怜がこちらを見た気がした。
頭も良ければ、運動神経も抜群な怜。
始まった途端、反感もかってしまっていたからか、一気に攻められていた怜だったけれど、綺麗に避けて、どんどんと相手のハチマキを奪っていく。
その姿は確かにかっこよかった。
見事騎馬戦は、怜のおかげで第1位という好成績を収めた。
体育祭中盤の学年対抗の綱引きも難なく終え、体育祭ラストの種目、学年別対抗リレーの時間になった。
来実「なんか緊張してきた」
美郷「その気持ちすごいわかる」
来実「一人一人の責任感じるよね」
そんな会話をしながらて競技の場所へと移動する。
大縄跳びとはまた違って、一人一人注目されているのがすごく嫌だ。
順位を落としては行けないという無言の圧力を感じる。
大縄跳びも嫌だけど、リレーもあまり好きじゃない。
美郷(足が早かったら好きになれたかもしれないのになぁ)
美郷が走るのはリレーの中盤。
無難な順番だ。
しかもバトンを渡す相手は来実。
来実が待っていてくれるとわかっている美郷は心強かった。
先頭がピストルの音を合図にスタートする。
待機列からは、自分のクラスを応援する声が飛び交っている。
美郷もそんな声に合わせて自分のクラスを応援する。
1組は運動神経がいい人が集まっているのか、好スタートで、1位2位を争っていた。
美郷「あっ、桐嶋くん」
5巡目で怜にバトンが渡った。
速い。
ずっとトップを接戦で争っていたのに、ここで2位のクラスと差を広げていた。
美郷(さすが桐嶋くん。すごい。桐嶋くんは私と違ってなんでもできちゃうんだから)
そのままどんどん差を広げて、次の人へとバトンを繋げた。
腕で汗を拭う怜。
そんな怜に、美郷は胸がキュンとした。
美郷(ちょっとかっこいいかも……)
リレーはどんどんとバトンを繋いでいき、ついに自分の番になった。
繋がれたバトンが近づいてくる。
美郷(私ならできる。頑張れ、美郷)
自分に喝を入れて、奮い立たせる。
なるべく順位を落とさないように。
差を縮めないように。
男子生徒「はい!」
バトンが繋がれた。
後ろは見ない。
前だけを見て走る。
グラウンドに小石が転がっていた。
それに運悪く美郷はつまづいてしまった。
美郷「わぁっ」
バランスを崩す。
しかし、何とか体を戻して、転ばずに済んだ。
来実が居るところまであと少し。
来実「美郷ちゃーん!」
美郷「はあっ、はあっ、来実ちゃん、お願いっ!」
バトンは無事に繋がれた。
それにホッとする美郷。
安心して力が抜けたからか、右足首がズキっと病んだ。
さっきバランスを崩した時だろうか。
足首を捻ってしまったのかもしれない。
怜「大丈夫か、美郷」
美郷「へっ?」
すぐに駆け寄ってきたのは怜だった。
怜「さっき、足捻っただろ」
美郷「なんで……」
美郷(なんでわかるの?)
怜「ほら、乗れよ」
そう言って、怜は美郷の前に背中を向けてしゃがみこむ。
美郷「乗れって……」
怜「保健室連れてくから、ほら、早く乗れ」
美郷は言われるがまま背中に乗った。
○学校・保健室
ガラッと開けて中に入る。
怜「ちっ。誰もいねーじゃん」
怜はそっとベッドの上におろしてくれた。
保健室には誰もいない。
そう言えば、少し前に保健室の先生が呼び出されていたような……
私の他にけが人がいたのかもしれない。
怜「ちょっと待ってて」
美郷「うん」
怜は棚をあさって、何かを探していた。
探していた何かを見つけたのか、また怜が美郷の元へとやってくる。
怜「足見せて」
美郷「うん」
痛む右足を怜に見せる。
怜「まだそんなに腫れてないな。きっと腫れてくるだろうから湿布してテーピングしておく」
怜は慣れた手つきで足に湿布を貼り、テーピングをしていく。
美郷「どこかで何かやってたの?」
怜「何が?」
美郷「それ、慣れてるみたいだから」
怜「中学の時バスケやってたからよく足捻ってテーピングとかしてたんだよ」
美郷「へぇー、そうだったんだ」
怜の新しい一面を知った。
美郷「きっとバスケしてる桐嶋くん、かっこいいんだろうな」
怜「……っ」
美郷「通りで運動神経抜群なわけだよ。騎馬戦もリレーもかっこよかった」
怜「なぁ」
美郷「ん……?」
世界が反転するのは一瞬だった。
ベッドの上に押し倒される美郷。
そっと唇が重なった。
美郷「……んっ」
怜「……っ」
すぐに離れた唇。
美郷も驚いていたが、それ以上に驚いていたのは怜だった。
美郷「今……」
怜「煽った美郷が悪い」
美郷「煽っ……」
怜「……ごめん。戻ろう。乗って」
怜は顔を隠すように反対を向いてしまった。
美郷はどうしたらいいのかわからず、怜の言う通りにまた背中へ乗った。
○学校・グラウンド
来実「美郷ちゃん!足捻ったんだって?大丈夫?」
美郷「うん、大丈夫。き、桐嶋くんが、手当してくれたから……」
来実「そっか、良かった」
怜は、美郷を置いたあとすぐにクラスの中へと消えてしまった。
あの後どんな顔をしていたのかはわからない。
ただ、私の体はずっと熱を持ったままだった。
テストが終わり、体育祭がやってきました。
運動がそんなに得意ではない美郷は、全員参加種目の大縄とクラス別対抗リレー、選択種目の綱引きに出ることになった。
仲良しの来実も一緒。
学年別で色違いなジャージを着て、グラウンドに全校生徒が集まっている。
天気は晴天。
絶好の体育祭日和。
みんな気合いが入っていた。
体育祭委員「これより、第63回体育祭を開催いたします!」
体育祭委員の言葉で周りがわぁっと盛り上がる。
来実「頑張ろうね、美郷ちゃん」
美郷「うん、頑張ろう」
最初の種目は大縄跳び。
実は一番苦手な競技が大縄跳びの美郷。
縄に引っかかってしまわないか、ドキドキしていた。
大縄の隣にピッタリのとくっついて並ぶ。
体育祭委員「3分間何度跳んでもかまいません。その中で一番跳べた回数がそのクラスの成績になります。準備はよろしいですか?行きますよ!よーい、スタート!」
体育祭委員の声でいっきにみんなの目の色が変わる。
男子生徒「行くぞ!そーれ!」
大縄を回すクラスメイトが掛け声をかける。
それに合わせてみんながタイミングをとる。
練習の時には引っかかって止まってしまうのが早かったけれど、今日は順調だ。
回数を跳んでいくにつれて、足が上がらなくなってくる。
美郷(つらい……でも、頑張らなきゃ)
足を引っ張るわけにはいかない。
必死に足を上に上げた。
ピピーッ!
笛の音が鳴る。
競技終了の合図だ。
結果発表を待つためにその場に体育座りをして待つ。
息が上がっていて、呼吸をするのがやっと。
数回止まってしまったけれど、クラスの新記録は達成した。
本番ということもあって、クラスみんなの団結力が深まっていたと思う。
体育祭委員「結果を発表します。1組、54回。2組、46回───」
私たちは3組に負けて、第2位の成績だった。
随分と健闘した方だ。
みんなは自分たちに拍手を送った。
次の1年生の競技は、男子による騎馬戦。
それには、怜も参加する予定だった。
競技が始まる頃には、ギャラリーがたくさんできていた。
来実「やっぱり桐嶋くん人気だね」
美郷「うん、そうだね」
来実「もちろん美郷ちゃんが応援するのは桐嶋くんだよねーっ?」
美郷「う、うん」
美郷(仮にも彼女なんだから応援しないと、だよね)
みんな名前を呼ぶのは怜。
女子生徒1「桐嶋くん頑張れ!」
女子生徒2「怜くーん!応援してるよー!」
それはクラスを飛び越えて敵のクラスの女の子たちも怜を応援するほど。
他クラスの男子生徒は、文句を漏らすほど。
怜は騎馬のトップ。
頭に巻いたハチマキがとっても似合う。
美郷(ハチマキを巻いてもかっこいいなんて、さすが桐嶋くん)
美郷「頑張れ、桐嶋くん」
そんな声は他の女子生徒たちの声に消されてしまったけれど、確かにその瞬間怜がこちらを見た気がした。
頭も良ければ、運動神経も抜群な怜。
始まった途端、反感もかってしまっていたからか、一気に攻められていた怜だったけれど、綺麗に避けて、どんどんと相手のハチマキを奪っていく。
その姿は確かにかっこよかった。
見事騎馬戦は、怜のおかげで第1位という好成績を収めた。
体育祭中盤の学年対抗の綱引きも難なく終え、体育祭ラストの種目、学年別対抗リレーの時間になった。
来実「なんか緊張してきた」
美郷「その気持ちすごいわかる」
来実「一人一人の責任感じるよね」
そんな会話をしながらて競技の場所へと移動する。
大縄跳びとはまた違って、一人一人注目されているのがすごく嫌だ。
順位を落としては行けないという無言の圧力を感じる。
大縄跳びも嫌だけど、リレーもあまり好きじゃない。
美郷(足が早かったら好きになれたかもしれないのになぁ)
美郷が走るのはリレーの中盤。
無難な順番だ。
しかもバトンを渡す相手は来実。
来実が待っていてくれるとわかっている美郷は心強かった。
先頭がピストルの音を合図にスタートする。
待機列からは、自分のクラスを応援する声が飛び交っている。
美郷もそんな声に合わせて自分のクラスを応援する。
1組は運動神経がいい人が集まっているのか、好スタートで、1位2位を争っていた。
美郷「あっ、桐嶋くん」
5巡目で怜にバトンが渡った。
速い。
ずっとトップを接戦で争っていたのに、ここで2位のクラスと差を広げていた。
美郷(さすが桐嶋くん。すごい。桐嶋くんは私と違ってなんでもできちゃうんだから)
そのままどんどん差を広げて、次の人へとバトンを繋げた。
腕で汗を拭う怜。
そんな怜に、美郷は胸がキュンとした。
美郷(ちょっとかっこいいかも……)
リレーはどんどんとバトンを繋いでいき、ついに自分の番になった。
繋がれたバトンが近づいてくる。
美郷(私ならできる。頑張れ、美郷)
自分に喝を入れて、奮い立たせる。
なるべく順位を落とさないように。
差を縮めないように。
男子生徒「はい!」
バトンが繋がれた。
後ろは見ない。
前だけを見て走る。
グラウンドに小石が転がっていた。
それに運悪く美郷はつまづいてしまった。
美郷「わぁっ」
バランスを崩す。
しかし、何とか体を戻して、転ばずに済んだ。
来実が居るところまであと少し。
来実「美郷ちゃーん!」
美郷「はあっ、はあっ、来実ちゃん、お願いっ!」
バトンは無事に繋がれた。
それにホッとする美郷。
安心して力が抜けたからか、右足首がズキっと病んだ。
さっきバランスを崩した時だろうか。
足首を捻ってしまったのかもしれない。
怜「大丈夫か、美郷」
美郷「へっ?」
すぐに駆け寄ってきたのは怜だった。
怜「さっき、足捻っただろ」
美郷「なんで……」
美郷(なんでわかるの?)
怜「ほら、乗れよ」
そう言って、怜は美郷の前に背中を向けてしゃがみこむ。
美郷「乗れって……」
怜「保健室連れてくから、ほら、早く乗れ」
美郷は言われるがまま背中に乗った。
○学校・保健室
ガラッと開けて中に入る。
怜「ちっ。誰もいねーじゃん」
怜はそっとベッドの上におろしてくれた。
保健室には誰もいない。
そう言えば、少し前に保健室の先生が呼び出されていたような……
私の他にけが人がいたのかもしれない。
怜「ちょっと待ってて」
美郷「うん」
怜は棚をあさって、何かを探していた。
探していた何かを見つけたのか、また怜が美郷の元へとやってくる。
怜「足見せて」
美郷「うん」
痛む右足を怜に見せる。
怜「まだそんなに腫れてないな。きっと腫れてくるだろうから湿布してテーピングしておく」
怜は慣れた手つきで足に湿布を貼り、テーピングをしていく。
美郷「どこかで何かやってたの?」
怜「何が?」
美郷「それ、慣れてるみたいだから」
怜「中学の時バスケやってたからよく足捻ってテーピングとかしてたんだよ」
美郷「へぇー、そうだったんだ」
怜の新しい一面を知った。
美郷「きっとバスケしてる桐嶋くん、かっこいいんだろうな」
怜「……っ」
美郷「通りで運動神経抜群なわけだよ。騎馬戦もリレーもかっこよかった」
怜「なぁ」
美郷「ん……?」
世界が反転するのは一瞬だった。
ベッドの上に押し倒される美郷。
そっと唇が重なった。
美郷「……んっ」
怜「……っ」
すぐに離れた唇。
美郷も驚いていたが、それ以上に驚いていたのは怜だった。
美郷「今……」
怜「煽った美郷が悪い」
美郷「煽っ……」
怜「……ごめん。戻ろう。乗って」
怜は顔を隠すように反対を向いてしまった。
美郷はどうしたらいいのかわからず、怜の言う通りにまた背中へ乗った。
○学校・グラウンド
来実「美郷ちゃん!足捻ったんだって?大丈夫?」
美郷「うん、大丈夫。き、桐嶋くんが、手当してくれたから……」
来実「そっか、良かった」
怜は、美郷を置いたあとすぐにクラスの中へと消えてしまった。
あの後どんな顔をしていたのかはわからない。
ただ、私の体はずっと熱を持ったままだった。