Filigran.
あれから幾日か経って、もう制服も夏服に変えた頃だった。
「雪乃~、今年の夏はプールに行こうよ」
「その前に乗り越えなきゃいけないテスト2個あるからね。
衣替えしたらもう夏じゃないんだよ、美花」
暑くなってきたのか胸元までの髪を綺麗にポニーテールに結わえた美花は、
私の言葉に「む」と嫌そうな顔をした。
私は元々勉強が得意だったし、両親が勉強だけには厳しかったのもあっていつも成績は上位だ。
私とは違って勉強が嫌いな美花と、テスト前には勉強会をして教えてあげるのが恒例。
「雪乃って出来ないことあるの?勉強も運動も、何でもそつない印象しかない。
美花はベンキョもウンドウも嫌い。」
そういって机に突っ伏す美花に、
「うーん、私にないものを全部美花は持ってるよ」と答える。
そう言えば「…雪乃は発言もかっこよくてずるい」とまたむくれる。
「本当なんだけどなぁ」
そう、本当。
自分に正直に生きているところも、いつでも可愛いところも。
今どきの女子高生らしい美花だけど、人の悪口が嫌いで群れるのを好まないところも。
私なら誰かが人の悪口を言っていたら「へぇ」と同調しないことで精一杯だけど、
美花は「そういうこと言う人が嫌い」とそこまでハッキリ言えるんだ。
「…美花みたいになりたいな、私は」
素直に彼の卒業ライブにも握手会にも行って、
『寂しいです』って伝えられたら良かった。
怖くて逃げてしまって、今だってやっぱり後悔している。
彼の涙の意味を、推し測ることすらできないんだから。