Filigran.
「えっと、それよりも申し訳なさが勝つと言いますか…」
と推しの前だからこそ失われる語彙力の中で
どうにか謝罪を紡ごうとするのに、
「何で申し訳ないの、触りたいなら触りなよ」
と言ってズイッと腕を差し出してくる。
わぁ細くて白い綺麗な腕だなぁ。
…じゃなくて‼
「だって人に触られるのはお嫌いなんじゃ…?」
と遠慮がちに聞くと、
「うん、嫌いだね」
と、ケロッとした表情で返ってくる。
やっぱりそうじゃん!と思って、
「だったら…」と話しだそうとすると、その言葉は弓弦君に遮られた。
「でも、雪乃は別」
「雪乃は良いよ、嫌じゃないから。」
そう、いつものように温度のない顔で言われる。
夕方のオレンジに照らされて、
画面越しよりももっと、彼の造形美が強調されている。
ここ最近は弓弦君に驚かされることばかりで、
考えても分からないことはいったん放置しようと決めることにした。
「あの、ひとまずベンチに座ってお話しませんか」
木陰の涼しそうなベンチを指さして、
ひとまず彼が私を訪れた理由を聞かないと、とそう思い直した。