Filigran.
かれし…?
いや、私は生まれてこの方彼氏なんて出来たことがないけれど、
目の前のこの美しい人は、
なんでそれが気になるの…?
彼の質問の意図があまりにも分からなくて、
私が答えずについ弓弦君を凝視していると、
彼は少しずつ辛そうな表情に変わっていって、
「ねぇ、俺ちゃんと恋愛しないでアイドルしたよ」
「雪乃は他の男にも好きって言ったその口で、俺のことも好きって言ってたの?」
そんな、この人は誰だと首を傾げるしかないことを言われる。
「私、彼氏いない…です。」
そう答えると、彼は途端に表情を綻ばせて
「良かった、間に合ったんだ。」
「じゃあ、俺が彼氏になれるね」
そんなとんでもない爆弾発言をかましてきた。
笑顔まではいかないけれど、
口元を軽く緩める彼の微笑みがずっと好きだった。
そんな表情を目の前にしても処理しきれない頭のまま、
どうにかそれを言葉にする。
「彼氏ってどういうことですか…?」
そう震える声で聞けば、彼は不思議そうな顔で
「雪乃は俺のことが好きなんでしょう?じゃあ、俺たち付き合わなきゃ」
「なんで?」という顔で平然と言われてしまった。
確かに私は弓弦君のファンで、大好きな人だけど。
あなたは、もっと素敵で美しい人と恋に落ちることが出来るのに。
…あぁ、分かった。
ずっと感じていた違和感はこれだ。
きっと弓弦君は、
最古参でファンをしていた私のことを見捨てられないんだ。