Filigran.
だから、私が言ってあげなきゃいけない。
あなたは私に囚われていたらダメだと。
妙なところで真面目な弓弦君だから、責任感のある君だから。
手が震えているのを隠すようにして、ぎゅっと握った。
「…私は確かにあなたのファンだけど」
「でも…好きな人ではない、です。」
大嘘だ。
最初にして最大の恋なのに。
私の言葉に黙ってしまった弓弦君は、
少ししてから、切なそうな声色でこう言った。
「今から俺のこと好きになる可能性はない?」
あまりにも、その声が泣きそうで。
反射的に彼の方を向くと、
本当に今にも泣きだしそうな顔をしている。
「え、それは…」
今現在好きなのに、弓弦君が大切だからこそ離れなきゃいけないのに。
そんな顔されたら、
私のこと大切なのかなって勘違いしてしまいそうだ。
「お願い、ちょっとでも可能性があるなら」
「絶対好きにさせるから…」
『好きにさせる』
だってそれは、アイドルだったあなたの得意分野。
もっと広い世界に羽ばたけるあなたのために、
本当は私なんかに縛り付けたらいけないのに。
「少しだけで良いから、毎日電話させてほしい」
「雪乃の声が聞きたい」
そんな顔されたら、
誰だって頷いてしまうに決まってる。