Filigran.


もしかして、弓弦君かな…。


ドキドキと心拍数を加速させながらスマホを見ると、




そこには『美花』の文字。




弓弦君かな、と思ってドキドキしていたけれど、

こんどは逆のドキドキが押し寄せてくる。



美花は電話をあまりする子じゃないから、


もしかしたら緊急事態かもしれない…!



急いで電話に出て、


「もしもし美花?何かあったの?」


と聞くと、ややあってから声が返ってきて


「…雪乃、彼氏出来たって本当?」


部活帰りなのか周囲の喧騒の中で、


美花の可愛らしくて甘い声だけが響いた。


「え、彼氏?」


今日は『彼氏』という単語ばかりを耳にする。




私が聞き返すと美花はモゴモゴと恥ずかしそうに、



「美花は雪乃の親友だと思ってたのに、言われてないなと思って…」



そんな可愛いことを言っている。



「えっと、誰が私に彼氏がいるって言ってたの?」



「バレー部の子たちとか3組の子も『雪乃ちゃんに超かっこいい彼氏がいた!』って話してて…」


「一緒に帰ってたって、でも美花知らないから…」



なるほどなるほど。




時すでに遅かったらしいけれど、


彼が弓弦君だということがバレていないならまだ良かった。




「あのね美花、私に彼氏はいないよ。」


「今日の人は小学校のときの友達?かな。ほっくんみたいな感じの」


そう誤魔化しながら
言うと、美花はホッとしたように「そうなんだ」と呟いた。




「私に彼氏ができたら美花にいちばんに教えるし、美花がそうなっても教えてほしい」


「だって私達、親友でしょ?」




そう言えば美花は嬉しそうに「うん」と笑ってくれるから、


余計に、辛くなる。



私がアイドルを応援してることは、


美花にも伝えていないことだから。




どうして私が自分の趣味を曝け出せないのか、

本当は自分でもよく分かっていない。


でも、そこには私の臆病さがしっかりと関係していることは確かなんだ。



「雪乃おやすみ。また明日。」

「うん、気をつけて帰るんだよ。おやすみ。」



もっと素直に、もっと正直に。


気になったらすぐに電話をくれる美花が、


やっぱり私には眩しかった。


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