Filigran.
美花との電話を終えてから、
「あれ?不在着信…」
不在着信が入っていることに気が付き、
そうしてようやく思い出した。
「弓弦君だ…」
今の時刻は20時半、まさに夜。
美花と電話をしている最中にかけてきてくれてたんだ。
「え、どうしよう」
サァッと自分の顔が青褪めていくのが分かる。
一気に焦りが訪れ、いったんベッドに転がり足をジタバタさせてみる。
ついでに一蓮托生の仲間、パンダさんも道連れにしてギュムギュム抱きしめてみたり。
かけてくれたのは10分前だから、
まだ別の用事には行ってないはず…?
…ていうか、推しに電話かけるなんてどんな状況⁉
頭はもう混乱しているけれど、
電話を折り返すのは早ければ早い方が良いに決まってる。
えぇい、かけよう!
片手でパンダさんを撫でまわしながら、
緊張でバクバクいっている心臓を無視して
とにかく勢いで彼に電話をかけた。
出るかな「もしもし」
…すぐに出た、秒で出た、食い気味に出てくれた。
「あの、さっき電話に出れなくてごめんなさい」
緊張しながらそう言うと、
「…ん、それは全然良いんだけど」
「…その」
電話を通したせいか低く聞こえる声も、
やっぱり3年間聴き続けた好きな声でドキドキする。
彼の好きなところなんてたくさんあるけれど、
声だって好きなんだ。
彼のソロパートもラジオも、たくさんたくさん聞いた。
そんな誰もが虜になる声を、
私が今、独り占めしてて良いのかな。
何だか言いづらそうにしている弓弦君に、
「どうしたんですか?」と聞けば、
意を決したように
「…夜に電話するのって俺だけじゃないの?」
と、いつもより甘い声で聞いてくるから、
少し脳が解けそうにビリビリとしてしまった。
「えっと…?」
彼の言葉の真意が掴めなくて、
ドキドキしながら聞き返すと、
「さっき誰かと電話してたんでしょ」
「…雪乃におやすみっていうのは、俺だけじゃないのかなって」
そんな糖度たっぷりで文句を言ってくるから、
やっぱり弓弦君の素は、全然クールじゃないのかもしれない。