Filigran.
「あの、ごめんなさい。知ったような口きいて…」
流石に烏滸がましすぎると思ってそう謝ろうとしたら、
「…ありがとう。」
「俺のこと、ちゃんと見ててくれてありがとう」
そうやって愛おしい宝石を大事に磨くような優しくて温かい声色で言うから、
「…こちらこそ、アイドルしてくれてありがとうございました。」
そうやって返すので精一杯だった。
あまりにも臆病すぎて、
あなたの最後のライブにも握手会にも行けなかった私に、
言えなかった感謝を伝えさせてくれて、ありがとうございます。
そんな思いも届いたら良いなと願わずにはいられなかった。
「…あの、そろそろ電話切りますね?」
そう言うと彼は「もう切るの」と、
何だか名残惜しそうにさっきと同じようなことを呟いてくる。
…そうやってあなたがやたら甘いから、
私の心臓がこれ以上持たないんです。
「…また暇なときあれば電話しましょう?」
そうやって言うのに、
「俺は暇じゃなくても電話したいのに」
「…雪乃の都合なんか考えないでかけてやるから」
あぁ、最後までこの人は。
これ以上際限なく好きにさせないでほしい。
「…それじゃあ」
「あの、おやすみなさい」
電話を切るときってこれで合ってる、よね…?
ドキドキとしながら彼の言葉を待つのに、
返事が返ってこないから「あれ、もう切れたかな」と呟いた瞬間、
「切れてない」
「…雪乃、おやすみ」
不意打ちでそう囁かれてしまうから、
もう、一気に顔が真っ赤になってしまった。
「雪乃が電話切って」
「…じゃなきゃ俺はずっと切らないよ?」
そうやって言われるから、
「えっと、切ります」
カタコトな口調になって、
かけるときと同様、
勢いで電話を切るしかなかった。