Filigran.
「ゆき、おはよ。彼氏できたの?」
次の日の朝、
昇降口でたまたま会ったのは、ほっくんだった。
ほっくん、
そんな「おはよう」の流れで聞くものじゃないよ、彼氏の有無は。
「おはよう、ほっくん。彼氏できてないよ」
私がローファーを脱いで中履きを履くのを待ってくれている彼は、
「えぇ、同じクラスのギャルと喜んだのに。」
「『ゆきに超イケメンの彼氏が出来たぞ~‼』って。」
そんなふざけたことを言っている。
「いやいや、本当に出来そうならほっくんも知ってるでしょ」
そう言って、
無事に履き替えた私はほっくんと並んで廊下を歩く。
「確かになぁ」
「…でも、ゆきの千夜弓弦ショックが癒えるかなって本当に嬉しかったんだよ」
伏し目がちにそう呟く彼は友達思いの素敵な人に間違いない。
…間違いないんだけど、
あまりにもタイムリー過ぎるその話題に、
内心冷汗が止まらない。
ほっくん。
君が昨日『ゆきの超イケメンの彼氏』って喜んだ『超イケメン』、
彼氏ではないけど正真正銘、本物の千夜弓弦です…。
「じゃあね~」
私のクラスである5組の前まで送ってくれたほっくんは、
今日も爽やかに3組へ向かっていった。
私達3年生は校舎の一番上に教室があるから正直しんどい。
やっぱり勉強するには体力が必要ってことか…、
と無理やりに解釈して教室へ入った。
しかし思わぬトラップに行く手を阻まれてしまう。
「雪乃ちゃん!彼氏できたって本当?」
おっと、噂が大好きなクラスメイトの仁奈ちゃんが出てきてしまった。
「いや、それはね」
と言いかけたその時、
「雪乃は彼氏出来てないよ、美花は親友だから知ってる」
スルリと私の腕に絡ませてきたのは、
今日はいつもより甘い香水の美花だ。
金髪を相変わらず綺麗に巻いて、今日はハーフツインにしている。
…と、それは置いておいて。
この子は、どうしてそんなに自慢げなのかな…?
今日一日はそんな感じで、私への質問は全部美花が
「美花知ってる。親友だから」といって窓口対応してくれていた。
うちの学校は中高一貫ということもあって、
一学年は240人でほとんどが顔見知り状態だ。
だからこそ、みんなが友達で色々と気になるらしい。
それもあって美花がそばで守ってくれるのは、本当に頼りになる。