Filigran.


「…うん、一緒に帰りましょう。」


「でも学校に来ると騒ぎになっちゃうから…」


「あ、私があなたの学校に行ったら良いんですかね」




そう提案すると彼は焦ったように、


「だめ、それだけは本当にだめ」と必死になって止めてくる。


「うち男子校だから、雪乃が来たらすぐに攫われちゃう」


そう弓弦君が言った途端、懲りない彼の周囲が



「さすがに攫わないよ~」


「俺らのことなんだと思ってる?」と騒ぐ。




そのあと皆さんが一瞬で黙ったことを考えると、


…弓弦君が怖い顔で睨んだ可能性、あるかもね。





結局私の学校から少し離れた時計台で待ち合わせることになって電話を切った。




ベランダから教室に入り、美花のもとへ駆け寄る。


「ごめんね美花、昨日の友達と帰ることになったんだ」


そう話すと、


「そっか、美花も今日ピアノだから昇降口まで一緒に行こう」と言ってくれた。



昇降口まで歩きながら、


「明日から勉強会できそう?」と美花に尋ねると、


「もちろん!頑張る!」と元気な返事が返ってきた。





ちなみに茶道やピアノを嗜む美花のお家はお金持ちで、


初めて美花に勉強を教えて成績がグンと上がったとき、


彼女の両親に大層感謝されて、高校生じゃお目にかかれない大金を渡されそうになってしまった。



「私は美花の家庭教師じゃなくて友達だからいらないです。」


「それよりも頑張った美花にご褒美をあげてやってください。」と言うと、


「なんて出来た子なんだ」とまたまた感動されて、


以降は勉強会の度に高級そうなお菓子を美花が抱えて持ってくるようになった。



なかなか不思議なご両親だけど、


美花のことを愛していて、私にも感謝していてくれることは分かる。


だからお菓子は有難くいただいて、


それを食べながら一緒に勉強を頑張るのが恒例になった。


< 26 / 92 >

この作品をシェア

pagetop