Filigran.
うちの学校は芸能科のある男子校で、規則が少し特殊。
普段は敷地内に女性が入ることはあまり推奨されてないんだけど、
体育祭の時だけは呼ぶことが出来る。
芸能科が呼べるのは親族だけ。
俺だけが在学途中でアイドルを辞めたから特例で、
在籍は芸能科だけど、普通科と同じ規則が適用されることになってる。
普通科は、親族だけじゃなくて呼びたい人も呼ぶことが出来る。
「…だから、普通科は他校の彼女を呼ぶ人が多い」
弓弦君から発せられる『彼女』の響きは、
何だかむず痒い少女漫画みたいな感覚がした。
「もちろん、外部の女性は芸能科には近づけないんだけど」
「俺だけが二つの科に跨る特例かな」
そう言って、彼は首を傾げながら微笑む。
「雪乃を、俺の大事な人として招待したい」
「男ばっかだから悩んだけど、
俺の信頼する人達で雪乃を護衛させようと思ってる」
「…どうですか、招待されてみませんか」
隣に歩く彼を見上げる。
少しだけはにかんで見せるこの表情は、
見たことのない顔だ。
いつかの帰り道みたいに夕方のオレンジはないのに、
耳の縁が赤く色づいているのが分かる。