Filigran.
普通科の人は彼女を呼ぶことが多い。
なら、弓弦君が私を呼ぶことって酷く重みのあることじゃないのかな…?
「でも、もし私が来たことがファンの人に知れたら…」
私の懸念は何よりそれだ。
彼を愛していた…それこそ私のようなファンが傷付いてしまう。
そのことも綿密に調べていたらしい彼は、
「体育祭のことは口外出来ないようになってる。
俺の元いた事務所も関係してるから、早々情報は洩れない。」
「それに、俺は芸能界をやめてケジメはつけてきた」
そう、すぐに答えをくれた。
私の返答を待つ弓弦君を見て、
少し前に電話で「同じ学校だったら」と話していたことを思い出した。
…あぁ、あのときから考えていたんだ。
私も本当は心のどこかでそうあってほしいと願っていたものを、
彼はいとも簡単に叶えてくれる。
「…うん、楽しみにしてます」
そうやって答えると、
彼は一気に花が綻んだように微笑んで、
「かっこいいところ見せるから」と意気込んでくれた。
…あぁ、どうしよう。
自分の感情がもう戻れないところまで来ていることに、
気づいた上で知らないふりをしていることに、
気が付かないふりをしている。