Filigran.
あなたと同じ学校の世界
弓弦君の学校の体育祭は、6月上旬の土曜日に行われる。
…つまり今日。
着ていく服ってもしかして私服なのかなと焦っていたら、
『せっかくだからジャージ着てきて』とそんなことを頼まれてしまった。
特に日焼けを気にしないといけない芸能科もいる学校だから、
待機場所は日除けと空調が管理されていて、やや寒いこともあるみたい。
上は半袖の上にジャージの上着を着ておくけど、下は短くて良いかな。
うん、いつもの体育みたいだ。
ちなみにお弁当も飲み物も用意しなくて良いらしい。
…至れり尽くせりすぎない?
いつもとは違う路線の電車に乗って、ほどなくして到着した。
一応弓弦君に「着いたよ」とメールはしておく。
その綺麗で高い、荘厳な校舎を見上げてつい感嘆の声が漏れる。
一体何階建てなんだろうか、一面ガラス張りの部分もある。
「うわぁ、ここがあの有名な…」
噂ではかねがね聞いていたあの高校に入れてしまうなんて。
…粗相をしないように大人しくしておきます。
少し進むと『親族・ご紹介の皆さま専用入口』と書かれた
ゲートのようなところがある。
事前に彼が『芸能科の入り口で「千夜弓弦の紹介です」って言えば入れる』と教えてくれていた。
言われた通りにして身分証を見せれば「乙木雪乃様ですね」と頷かれ、中に入ることが出来た。
中に足を踏み入れれば、びっくりするほど広いグラウンドが広がっている。
しかも芸能科のゲートをくぐると芸能科側にしか来れないみたいだ。
もう既にたくさんのご家族の方が来ているのが分かる。
「んー、どこに行ったら良いのかな」
そう思ってキョロキョロしていると、「雪乃!」と聞き慣れた声が近づいてきた。