Filigran.
近づいてきているはずの弓弦君を探すのに、どこにもいない。
「…あれ?」と思ってまた見渡すと、「ここだよ」と今度は至近距離で聞こえる。
…嘘だ。
「…この金髪の人が?」
「俺です」
「珍しくゆるふわに巻いてる人が?」
「俺です」
「…ちょっと信じられないです」
「あ、信じてくれなかった」
またもや季節に似合わない上下のジャージ姿の弓弦君。
ドラマの役で金髪にした時もひっくり返るくらい驚いたのに、
至近距離でこんな、しかも晴天で天使の輪が輝いてる…。
「…じゃなくて」
途端に彼の声質が変わる。
「なんで、その、ズボン短いの…?」
何故か私の足は見ないようにして、
しっかり目線を合わせてそんなことを言ってくる。
「え、暑いからです」
「それはそうか」
普通にね、もう6月だからね。
「競技に出るときだけ俺上着脱ぐからさ」
「絶対に膝にかけといて」
そうやって念を押すように言われるから、
「わかりました」と首をブンブン振って頷いておいた。
「あれ~弓弦、それが例の子~?」
「お前、見たことない優しい顔してんじゃん」
ぞくぞくとグラウンドに生徒たちが集まる中、
とある二人がこちらに近づいてきた。