Filigran.
「…雪乃やめて、俺以外に見惚れないで」
「いや、弓弦君と初めて話したときより落ち着いてます」
「あぁ、本当だ。ごめん」
そんな風に弓弦君と話していると、
さっきまでアイドルスイッチを入れていた二人は一瞬でオフにしたのか、
「やば~い!おもしろすぎ~」
「それな、弓弦たち漫才してんじゃん」
と言っては二人でゲラゲラ笑い転げている。
…ちょっと、画面越しの彼らとイメージが違いすぎる気が?
と、そんな私の疑問にもやはり気が付いたのか、
「アイツらはあれが素だから、いつもは事務所に決められたキャラを演じてる」
「普段はしょうもないことしか言わないけど。でも、凄いヤツらだよ。」
そうやって言われて、
あぁ、色んなアイドルの形があるんだなと実感した。
何度もライブに行ってラスクラの4人を見てきたけれど、
あの二人がキャラを演じていたことに少しも気が付かなかった。
そこまでして私達に夢をくれていたなんて、と有難い気持ちが止まらない。
「…あとの1人の日野聖生さんだけが年上ですよね」
「そう。聖生君と俺の二人だけ素のままで表に出て良いって言われてた」
「…なるほど」
台本のない自分そのもので在ること。
もし誰かに冷たい言葉をかけられたとき、それは自身に深く突き刺さるのだろう。
自分を偽らずに表舞台に上がるのも、誰かを演じて夢を届けるのも、
どちらも辛いことなんだろうなと思う。