Filigran.


…しかもあの衣装は見たことがない。





そう思って見ていると、ふと近くにいる人が


「あの服、事務所と交渉して持ってきたんだって」


「弓弦の卒業ライブのときだけ着たらしい。


だからほらアイツのメンバーカラーの青でしょ」




もう、言葉にならなかった。




キラキラと輝く純白のナポレオンジャケットに豪華な肩章、


光が差し込むたびに青に煌めくから『千夜弓弦』みたいに気高くて美しい。




「王子様だ…」



本当に、真剣にそう思った。




彼らはデビュー曲と、弓弦君が最後に参加した曲を披露してくれた。


見やすい場所と言っても、確かに遠い。


それなのに。


彼の最後をちゃんと覚えておきたいからジッと見つめていたら、


デビュー曲の間奏部分、一瞬音が消えて弓弦君の台詞パートがある。



そのとき、



こんなに遠いのに目が合った。




見つめたまま逸らさないで彼は言った。







『…好きだよ』







何の音も聞こえない、彼しか目に入らない。






私はようやく


もう、逃れられないほどに


弓弦君を好きになっていたことに気が付いた。









そうして私は人知れず涙を零した。



好きになってしまったら、もう一緒にいられないから。



あまりにも臆病な私の恋は、



始まった瞬間に終わってしまうものと、もう分かっていたから。




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