Filigran.


学校から頂いたお弁当を食べながら、


「本当にできて良かったよなぁ」と日野さんが朗らかに言う。



弓弦君はそれを聞くと恐縮そうな表情で、


「事務所への許可取りとか、聖生君に頼りっぱなしで…」と、そう零した。



それを聞くと日野さんは、


「弓弦はこれまでが頼らなすぎ」と快活に笑い飛ばして、すぐに私の方を見た。



急に合った目線に驚くと、日野さんは「…楽しんでくれた?」と優しい声色で問う。



私はそれに「もちろんです」と首がもげるくらいに頷いた。





それを見て彼は嬉しそうに笑うと、


「なら良かった」と、ニカリと効果音が付きそうな眩い笑顔をくれた。




私も会話にも混ざれるように話してくれる彼らだけれど、


たった一瞬だけ、私の知らない”彼ら”を垣間見る瞬間があった。




「…”先輩”がいたら、今日も来てくれてたのかな」


ハンバーグを飲み込んでから、新條君はそう呟く。


天海君は咄嗟に顔をあげて、「ノア、その話はやめよ」と言う。


日野さんも「あいつもあいつの人生を生きてるよ」と寂しげに微笑む。





弓弦君だけが顔を上げずに俯いたままだった。






誰が呟いたかは分からない。



それでも確かに切なそうな「…(しゅう)君」という声は聞こえた。


それが誰のことを指すのか、私には分からなかった。
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