Filigran.


それからはのんびり過ごして、


お腹いっぱいで眠いのと午後の競技を見たいのとせめぎ合っていたのに、


気づけば意識を手放していた。





ふわりとシトラスが香る。


好きな香りだ、とそこに頭をグリグリ押し付けると、


「眠い時の雪乃って本当たち悪い…」


近くで好きな声も聞こえる。





だんだんと覚醒する頭で「…ん?」と目を開けると、


「おはよ」と呟く大好きな美しい顔が超至近距離にあって、


頭が一瞬でパンクして、言葉にならない言葉が生まれる。




「え、あの、かた、ゆづるくん」


「そうだね、俺の肩で寝てた」


「ごめん、なさい」


「全然いいよ。他の男の肩で寝てたら許さないけど」


そういって軽く口角をあげて微笑むから、


「…あの、よく眠れました」と言うことしか出来なかった。





天海君と新條君は身を寄せ合い


端の方で体育座りして、


「…あま~い」

「過度な糖分はおやめくださーい」


と聞き取れない声でボソボソ言っている。


長身の二人が頑張って小さくなっているのは何だか可愛い。




「…もう日野さんは帰ったんですか?」


「うん、ロケ収録だって。合間縫って来てくれたから。」


やっぱりすごい人たちだ。



あそこで小さくなっている天海君と新條君も人気アイドルで、


今は二人が学生だからそれなりに仕事もセーブしているけれど、


来年彼らが卒業したら、三人で本腰をいれて活動していくのだろう。




手の届かない存在なのに、すぐそこにいるから、


そんな感覚が掴めなくなってきてしまう。


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