Filigran.
「雪乃!最近体調悪いの?今から移動教室だよ?」
友達の江藤美花に心配そうに声をかけられ、ハッと気が付いた。
急いで時計を見ると、もう1限が終わっている。
「…なんかあるなら言ってよね、美花は雪乃の親友なんだから」
不貞腐れたように優しい言葉をかけてくれる美花は、見た目はしっかりめのギャルだ。
キューティクルで艶々の金髪を、毎日欠かさず綺麗に巻いてきている。
睫毛もバッチリ上がっていて本当に綺麗な子だし、私よりも身長が低いところも可愛い。
「ありがとう、何でもないよ」
急いで英語の教科書やノートを取り出し、美花の隣に並ぶ。
もう長いことショートカットの髪型をしている私は、
動くたびにふわりふわりと甘いフローラルが香る美花を、
ちょっと羨ましく思っているのかもしれない。
午前中の授業が終わって、
お昼ご飯を一緒に食べようと美花が私の席へ椅子を運んできてくれているとき、
ふと廊下から声がかかった。
「雪乃ちゃん、呼んでるよ!」
私だ、と思ってそちらを向くと、
そこには私が唯一、推しがいることを打ち明けている友人が立っていた。
「美花、ちょっと行ってくる」
そう声をかけながら席を立つと、
「うん、待ってるね」
と言って、彼女は一緒に食べようと待っていてくれるみたいだ。
頬杖をついてスマホを見ている彼女の傍を離れて、
「教えてくれてありがとう」と友人の来訪を教えてくれたクラスメイトに声をかけてから、
「…お前、メンタル大丈夫か」
小学校からの腐れ縁、高藤北斗の心配そうな表情に迎えられた。