Filigran.



足の筋肉を伸ばしながら、自信のある表情をしている弓弦君。


グラウンドと晴天がこんなにも似合う人がいるのかとびっくりする。




天海君が、


「弓弦、あんまりイメージ無いけど走るの得意なんだよ。


うちの学校でいちばん速い。」と自慢げに教えてくれた。




「そうなんですね」と返しながら、


そんなにかっこいい要素を詰め込みすぎないでよ、と心配になる。





選抜リレーというだけあって皆速くて、見応えが凄かった。


レース中はずっと紅組が白組を追う展開だったけれど、


弓弦君にバトンが渡る2個前の人が、緊張からか足をもつれさせた一瞬で


紅組が白組を抜き去った。




それでも接戦のままに、いよいよバトンが弓弦君に渡る。


無駄のない動きで受け取ると彼の足は軽やかに地面を蹴る。




綺麗なフォームで、襷をたなびかせながら走りだした。


「…本当にはやい」


どんどんと紅組との距離を縮めると半周も過ぎない頃には、





もう抜き去ってしまっていた。






「アンカーは2周走るんだって」と新條君が呟く。


それから心底楽しそうに、不敵に笑って続けた。


「1日2公演もライブやってた弓弦のスタミナ、舐めてもらっちゃ困るよな」




その言葉通り彼は、


少しも相手を寄せ付けることなく、


余裕そうな表情でゴールテープを切っていた。






心の底から叫びたい。


あの人の額を覆うハチマキには私の名前が書かれているし、結んだのは私だって。


そんなこと言えるはずもない私は、彼の上着をギュッと握りしめた。










「もう会わないようにしましょう」


震える声で言ったのは、体育祭の後片付けも終わるころだった。

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