Filigran.
「俺らも仕事の途中だからさ、単刀直入に言うけど」
「弓弦がもう死にそうなくらい苦しんでるの」
天海君の口から語られたのは、今の彼の様子だった。
夜は寝れてないみたいだしご飯も碌に食べようとしない。
俺ら以外には引くほど冷たい態度しかとらない。
ボロボロなのに「もう一度アイドルになりたい」って事務所で頭下げてるんだ。
君の愛情をもらうためなら、何だってするんだよ、してしまうんだよ。
学校でたまに倒れるように眠るんだけど、あいつ寝言でなんて言うと思う?
「ごめんね雪乃、好きでごめん」って泣きながら謝るの。
「…もう見てられなくて」
新條君も続けて言う。
「俺の髪はさ雑誌の特集で染めるんだけど、青にしたから弓弦のメンバーカラーでしょ?」
「それ見ても『アイドルに戻らなきゃ』って言うの。狂ってきてる」
語られたのは弓弦君が苦しそうに藻掻く今だった。
それを聞いて私は、自分のしたことの大きさを悟った。
「…あの、私」
言葉を紡ごうとしても、上手く話せない。
長いこと眠れていない頭では考えきれない。
「…でもさ、雪乃ちゃんの辛さも分かってる」
「だから今日は伝えに来ただけ。君はそれを知る義務も権利もあると思うから。」
「…お家に帰って、ちゃんとご飯食べて寝るんだよ」
天海君の優しい声に抑えきれなかった涙が、つい零れてしまった。
それを見て新條君が、
「いつか、ちゃんと二人が分かりあえるって信じてるよ」
そう言って、ハンカチで涙を拭ってくれた。
大きな車を見送って、また歩き出した。
私なんかのことで苦しまないでほしいのに、
彼の中に私がいることに、少し嬉しいと思ってしまう自分がいる。
「…だいっきらいだな、わたし」
嫌いだ、ずっと、自分のことなんて。