Filigran.
結局私の心は復活しないまま、7月を迎えてしまった。
ある金曜日の放課後。
とうとう痺れを切らしたほっくんが、
「…お前の好きなクレープ食べに行くから、明日13時に駅前集合!」
とだけ言って去ってしまった。
美花も、ここ最近ずっと心配させてしまっている。
「…いつでも美花ん家の豪邸に遊びにきていいよ、猫と遊べるよ」と独特な慰め方をしてくれた。
いつになれば私は元通りになれるのか、
もう検討すらつかなくなってしまっていた。
7月上旬でなかなか暑いけれど日焼け対策はしたい。
黒の軽くフリルがあしらわれたシャツに少しゆとりのあるジーンズ。
上には白の長いカーディガンを羽織って、靴は簡単なスニーカー。
私は身長が162㎝あるし髪型もショートカットだから、
わりとボーイッシュな格好をすることが多い。
黒のサコッシュをかけて「行って来ます」と家族に声をかけてから家を出た。
「ゆき、おはよ」
「おはよう、ほっくん」
駅に着けばもうほっくんはいた。
待ち合わせより5分は早く来るのが私たちの通常だけど、
そういえば弓弦君は、殆ど待ち合わせの度に先に待っててくれてたなぁ。
…違う、彼のことは思い出せる権利なんて私にはない。
そう思い直して、
クレープのお店を調べてくれていたほっくんに着いていく。
「ゆき、どれが良い?」
「暑いしアイスが良いかも。ほっくんは?」
「ブラウニー入ってるの上手そうじゃない?」
連れてきてくれたのは古民家風のクレープ屋さんだった。
電車に乗ってすぐの駅で降りて、
少しだけ入り組んだ道のりを歩くとそこにあった。
それぞれ食べたいものを頼む。
二人で遊びに行くときはなるべく割り勘にするけれど、
「今日だけ」と言って、ほっくんがご馳走してくれた。
「ありがとう」
「いーえ、食べよ」
こうやって連れ出して、元気づけようとしてくれているのが嬉しい。